「お父さん、何時に行くの?」
僅かだが、いつもより声が大きく少しだけ尖っている気配。
つまり殺気を含んでいると云うことだ。
応え方を間違えると言葉の矢が飛んでくるのは間違い無い。
長い経験から私は慎重に言葉を探す。
明日から秋の彼岸に入るので、準備の為にお寺へ行きたいのだ。
「いつでも良いよ」なんて云うと、「そんな他人任せにして(怒)」と云われるのは目に見えている。
だから「お母さんが良ければ、今からでも行こうか」と云ったのだが、どうやら彼女の気分を害さず正解だったようだ。
素早く着替えてスーパーでお彼岸の飾り付け用品の買物。
緊急事態宣言下、「不要不急の外出は控えて」と云われているが、けっこう人出が多く売場を動き回るルンバの姿を何度も見失いそうになる。
私は、子羊のように彼女の姿を求め後ろへ食らいつく。
彼女が手にした商品を持ちながら振り返った時にサッとカートの籠を突き出す。
執事のような私の機敏な動きを奥様は気に入ってくれたようで、ご機嫌は良い。
「この後、何処へ行くの?」
奥様の問いに、「いつものルートで廻ろうかと・・・・・」と応えたのだが、それも気に入ってくれた様子。
よしよし、今日は無難に過ごせそうだ。
私はハンドルを握り、先ず奥様の両親が眠るお寺へ向かった。