田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『BAUS 映画から船出した映画館』

2025-03-08 18:59:23 | 新作映画を見てみた

『BAUS 映画から船出した映画館』(2025.2.14.京橋テアトル)

 1927年。活動写真に魅せられて青森から上京したハジメ(峯田和伸)とサネオ(染谷将太)の兄弟は、吉祥寺初の映画館・井の頭会館で働き始める。その後、ハジメは活弁士、サネオは社長として劇場のさらなる発展を目指すが、戦争の足音がすぐそこまで迫っていた。

 2014年に惜しまれながらも閉館した映画館・吉祥寺バウスシアターをめぐる歴史と家族の物語。映画館が多くの人々に愛される文化の交差点になっていく長い道のりを描く。

 吉祥寺バウスシアターの元館主・本田拓夫の著書『吉祥寺に育てられた映画館 イノカン・MEG・バウス 吉祥寺っ子映画館三代記』を原作に、22年に亡くなった青山真治監督が温めていた脚本を、青山監督の教え子でもある甫木元空監督が引き継いで執筆し、メガホンを取って完成させた。大友良英が音楽を担当。

 吉祥寺バウスシアターは、その最晩年に取材をし、爆音映画祭にも顔を出したので、この映画の話を聞いた時には感慨深いものがあった。ところが、映画館への思いにあふれた単純で素直な年代記にはしたくなかったのか、観念的かつ前衛的な描写が目立ち、かえって興をそがれたのが残念だった。サネオの妻のハマを演じた夏帆と井の頭会館の先代社長役の吉岡睦雄が印象に残った。


『爆音映画祭 ゴジラ伝説』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/18f0d2bafbdc7f21107034d06dc3a207

【違いのわかる映画館】吉祥寺バウスシアター
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ea2b6f99e1f7da1aaaaf3b0d5c4b176a

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『教皇選挙』

2025-03-08 13:35:08 | 新作映画を見てみた

『教皇選挙』(2025.2.26.キノフィルムズ試写室)

 全世界に14億人以上の信徒がいるとされるキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者で、バチカン市国の元首であるローマ教皇が亡くなり、新教皇を決める教皇選挙「コンクラーベ」に世界中から100人を超える候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の閉ざされた扉の向こうで極秘の投票が始まる。

 票が割れる中、選挙を執り仕切ることになったローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は、何とか無事に選挙が終わることを願うが、水面下でさまざまな陰謀や差別が飛び交い、候補者たちのスキャンダルが次々に浮かび上がってくる。果たして選挙の行方は…。

 『西部戦線異状なし』(22)のエドワード・ベルガー監督が、ローマ教皇選挙の舞台裏と内幕に迫ったミステリー。スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニらが脇を固める。

 政治家の選挙そのものを描いた映画もそれほど多くはないが、教皇の選挙となるとなおさら珍しい。この知られざる“イベント”を通して、聖職者と呼ばれる人たち、引いては男たちの権力への欲望の実態を明らかにするという趣向が斬新。

 加えて、システィーナ礼拝堂という、外界から閉ざされた巨大な密室内で繰り広げられる権謀術数、何度も行われる投票、投票を重ねるたびに目まぐるしく変わる情勢という、まさに“根比べ”ならぬ「コンクラーベ」の様子を描いたピーター・ストローハンの脚本が優れているのでミステリーとしても面白い。しかもラストには皮肉などんでん返しまである。先に行われたアカデミー賞で脚色賞を受賞したのも納得の出来。ファインズ、トゥッチ、リスゴー、そしてイザベラというベテラン俳優たちのやり取りも見応えがある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『プレゼンス 存在』

2025-03-08 00:53:47 | 新作映画を見てみた

『プレゼンス 存在』(2025.3.6.オンライン試写)

 崩壊寸前の4人家族が、ある大きな屋敷に引っ越してくる。10代の娘クロエ(カリーナ・リャン)は、家の中に自分たち以外の何かが存在しているように感じる。“それ”は一家が引っ越してくる前からそこにいて、他者には知られたくない家族の秘密を目撃する。母(ルーシー・リュー)や兄に好かれていないクロエに“それ”は親近感を抱く。一家とともに過ごしていくうちに、“それ”は目的を果たすためにある行動に出る。

 『トラフィック』(00)や「オーシャンズ」シリーズ、『コンテイジョン』(11)などを手掛けたスティーブン・ソダーバーグ監督が、ある屋敷に引っ越してきた一家に起こる不可解な出来事を、全編を通して幽霊の一人称視点で描いた新感覚のホラー。脚本は「ジュラシック・パーク」シリーズや「ミッション:インポッシブル」シリーズなどのデビッド・コープ。

 この小品とも呼ぶべき映画の味わいは、ホラーというよりも心理ミステリーの一種と言った方が近いかもしれない。幽霊の目線に合わせて自分も他人の生活をのぞき見しているような不思議な感覚に襲われるが、画面が揺れるので酔いそうになるのが難点。84分でまとめたためか、登場人物の心理面にはあまり深入りせず、省略も目立ったが、その分観客の想像に任せるようなところもある。

 ただ、アメリカのティーンエイジャーの間ではこんなふうに日常的に薬物が使われているのかと思うと、幽霊よりもそちらの方が怖かったりして。また、幽霊目線と言えば、白い布をかぶった夫の幽霊が妻を見つめる『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』(17)のことを思い出した。


『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f387c4bc3b411067f6a99b4040bad003

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする