硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「風立ちぬ」 君さりし後 12

2014-08-19 12:48:20 | 日記
「・・・私がこんな事を言うと矛盾しているように思われるかもしれませんが、米軍の空爆を目の当たりにして、人間と言うものは此処まで非情になれるものかと思いました。市街地にガソリンの雨を降らした後に焼夷弾を落とすという攻撃は効果的な攻撃であることは分かりますが、武器も持たぬ民間人にも多大な被害が及ぶことも十分理解できたでしょう。そして、おそらく、彼らにとっては予測通りに被害を与られたのだろうと思いますが、しかし、街の風景は地獄絵図そのものでありました。一面に漂う人間の焼けた匂い、丸焦げになって並べられたご遺体を見て、これが作戦上の予測というならば、鬼、畜生の仕業でなければ出来ない事だと思いました。」

次郎は時頼頷きながら青年将校の話に耳を傾けた。

「その光景に怒りを覚え、米国を憎みましたが、しかし、我々も・・・。我々も、八紘一宇という思想の下、その思想の道理を忘れ、此処まで残忍ではありませんが諸外国の民に対して非情な行為を行ってきた現実があることを棚に上げて米国を一方的に批判することは出来なのではと思ったのです。」

「・・・。」

「そこに疑問に思った私は、戦争が人の命と引き換えに何をもたらすのか、改めて考えました。しかし、すべては机上の空論。私が考えている間にも、どこかで人が個人的な理由もなく殺し合っているのです。それは国が命令しているからにはちがいないのですが、末端になればなるほど、統制が図れなくなり、何をしているのか分からない状態になっているのです。もし国というものがそこで暮らす人々の幸せを願っているのであれば、国土を護る為なら、軍や政府は戦争などせず、解決する方法を取るべきなのではと考えたのですが、それを口にした所、相手にされないどころか日本国民であり帝国軍人であるにもかかわらず非国民扱いをうけました。格律は普遍的法則として役立つかのように行為しなければその意味をなさないはずなのですが、人間が硬直してしまった士官の仲間や上官は意気揚々として好戦的姿勢を崩しませんでした。」

青年将校は実直で真面目であった。その真面目さが彼を苦しめている事も彼の発する言葉から伝わって来た。