「若き数学者のアメリカ」に出てくるラマーズ法で出産された作者の奥様とエッセイスト藤原美子さんが同一人物と知ったのは数年前のことであった。エッセイを読んでいて知ったのである。このエッセイは子供たちのこと、学校のこと、ご主人のことなどが楽しくやさしい文で綴られていた。続けて3冊、息子さんたちが大学生に成長するまでを読んだ。
最近になって主人が勝手にご夫妻の本を注文した。アマゾンから届けられた本をみてがっかりした。3冊のうち2冊はすでに我が家の本立てにあるものだったから。
3冊の内で私の興味をそそったのは「藤原家のたからもの」と云う題。16のたからものとそれにまつわるエピソードが出てくる。写真つきなので想像するよりリアりティ―があり、最初に写真を見て半分ぐらい読んだところでもう一度写真を眺めると本当に文が膨らみ本物を見ている気がしてくるから不思議である。「たからもの」といっても単なる品々でそれが書き手の思い出が語られると突如「たからもの」に変身するのは作者の偉大な力のせいなのでしょう。
驚いたことに随分古い昔のことなのに本当に細かいことまで記憶されていて読者を魅了する。以前の本と比較すると文体にへんかが出て来たし先を読ませる何かが加わったように思う。もう一つビックリするのは物持ちが良いということ。小学校2年の時の日記帳、独身時代の料理本、最期の方ではイギリス人から貰ったラブレターまでが宝物として出てくる。
アット云う間に16項目の半分まで読んだ。暇な毎日を過ごす自分のためにもっと少しづつ読むようにしなければと反省している。
最期まで読み終わって当然のことながら私は「たからもの」と云えるようなものを持っているだろうかと考えた。性格上使わないものは直ぐ処分する性質であるが、思い当たるものが二つあった。一つは交際中に交換した大学ノート30冊、もう一つは72歳まで通ったベルリッツで貰った小ぶりの置時計ぐらいである。(E)