ジョンウェインと父子の映画

昭和３０年代の事です。
小学生のヒゲは、机で勉強してるフリをして居りました。
父親が部屋を覗いて、声を掛けます。　「　オーイ、幸一何かしよるかい？　」
「　ウンニャ、何も　」　「　ほんなら、映画でも観に行くかい？　」「　うん、ウン　」
当時は、映画と云うと子供には随分な贅沢品でした。
当然ながらヒゲは、否応なしで付いて行きます。

　　　

西部劇が好きな父親だから、大方、鶴屋Dがある通町筋の　『　大劇（タイゲキ）　』　に
決まってました。
こうして、ホンの成り行きで映画館に入って行くのです。
暗い館内で、ふたり分の空いてる席をキョロキョロして見付けます。
周りの客は真剣に観ている時ですから、当然嫌われます。
やれやれと座って、スクリーンに目を遣る事に。
既に映像は、いきなり幌馬車がインデアンに囲まれています。
小学生ヒゲには、訳が判りません。
しかも、虎口を脱するヤ、直ぐに決闘のシーンに。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「　フン、てめーが先に（ピストルを）抜きな、　フッ、フフフ　」
クライマックスが終わり、カーテンが降りて明るく成り、皆さん帰って行きます。

ヒゲ親子は、ふたりだけポツンとそのまま残るのです。
やがて、清掃のおばちゃんがゴミを回収に来ます。
しばらくゴロゴロして居ると、次の上映の客が、三々五々と入館し始めます。
「　ブーッ　」　とブザーが響き、開映です。
イントロの音楽が鳴り、ムードを盛り上げます。
そして開演から　２/３　程した頃です。
先ほどの、幌馬車インデアン囲みシーンが登場です。
ヒゲ親子は、ココぞとばかりに帰って行くのでした。
周りの客は怪訝の顔で居ります。
「　今からが、一番面白い所が始まるのに、この人達は何だ？　」

ヒゲの父親からすると、後半の　１/３　観て、前半の　２/３　観れば、
合計で、　１/３　＋　２/３　＝　映画一本分だと云う訳です。
理屈は合ってますが。　（笑）
ヒゲ父子は、いつもこのパターンでの映画鑑賞、何の疑問も無かったのでした。

そんなある日、正月のお年玉で潤っていた小学生ヒゲ。
時計を確認した後、意を決して、ひとりで映画館に向かいました。
初めて　“　小人　”　のチケット代金を払い、入場します。
まだ、幕は降りたままです。
やがて照明は落ち、幕が開きます　・・・　何が始まるンだろう？
そして、観終わった少年ヒゲ　「　イントロから観る映画って、何て！　面白いのだろう　」　と。
１/３　＋　２/３　が、決してイチでは無い事を思い知ったのでした。
当然、その後、父子一緒に映画を観る事はありませんでした。

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