今秋 念願だった白神山地を旅した。
世界自然遺産に登録されたのは 1993年のことだ。
なぜか「ブナの森」というのは憧れ的な思いがあるが 若い頃 北アルプスを歩いたときにもブナの森はあったのに それほどまでにブナに深い思いを寄せていなかったように思う。
たぶん 白神山地の登録が一気に「ブナの森」への思いを高めたのだろう。
立山の中腹 大山の山裾 白山の山裾 尾瀬などで大規模なブナの森を見て 胸が躍った。
以前から 和泉葛城山頂付近にあるぶなの森はよく知られていたが そこに行ってもそれほど感動した覚えはない。
金剛山によく登るようになって 山頂部にぶな林があるのを認識して 身近なところにある「ぶなの森]をうれしく思った。
テレビなどで ブナの森の自然の豊かさを知るにつけ ブナへの憧れはいっそう深まった。
滴る水 森に咲く花 森に住む動物や鳥、魚。山に生える山菜やきのこ。そんな中で森と一体になって過ごしたいと思った。
京都の芦生へ行ったとき そのみずみずしいブナの森、かぐわしい木々 その中に咲く花 山をオレンジ色に染める紅葉 豊かな沢に魅せられた。夢は膨らみ 秋田県の森吉山の深い森を歩いた。どれもこれも ほんのちょっぴりぶなの森に触れたに過ぎない程度だ。
今回は 「世界遺産の白神山地へ行く」と、どれほど胸ときめかせたことだろう。
ところが安い飛行機で仙台まで行ったものの 白神は遠い。現地で本当の森を歩くには 4泊5日の旅行など観光旅行でしかありえなかった。体力がなく、歩くにも時間がかかり過ぎることも大きい。
夢に描いていた白神なのに 二つ森の山は 山頂近くまで広い林道が整備され 見晴らしのいい明るい山だった。秋田県側は 過去に伐採目的で 県境付近までほとんどブナの森が切り倒され 遠くまで見渡す明るい道路になってしまっていた。
十二湖の森は ブナの原生林 カツラ トチ ミズナラ などなど 奥深いしっとりとした森だったが 森の中はずーっと遊歩道が整備されていて 原生林のイメージからは程遠かった。暗門の滝などは 滝までの道がほとんどコンクリートが敷かれ 観光地だった。白神ラインから見る白神はブナの森がずーっと広がっていたが 車を降りて森の中をゆっくり楽しむには とても時間がなかった。
帰ってから 白神山地について書かれた本を何冊も読んだ。
春の山、夏の山、秋の山、渓流、などを杣人の歩いた道を探しながら楽しむには その地に住み、少しづつ慣れ親しまないと 初めて行ってめくらめっぽう歩いたところで 危険なだけで何の喜びも得られない。
しばしばたずねるには、白神は遠すぎる。もう体力も時間もない。
本を読んで その世界に思いをはせることにしよう。 豊かな自然がいつの時代までも守り継がれますように。
そして 豊かな自然を あまり観光客目当ての商品にしないでほしいと願う。