「密室の怪」なら、何やらミステリー小説っぽくて、書くほうもワクワクしてきそうですが、こちらは「怪」ではなく「快」。
権力者役と服従者役
どうやら人は、相手が無抵抗の状況にいるのを眼の前にすると、暴力や権力を振るいたくなる欲求を持っているようです。かつて読んだものによれば、ある心理学の実験で、もともと同等の人たちを半分に分け、一方の集団を権力側、一方の集団を服従側というぐあいにそれぞれの役になりきらせ、同室に入ってもらいます。最初は全員、遠慮がちにしていますが、権力側の役が少しずつ力を出していくと、服従側の役は抵抗せずじっと我慢しています。
やがて権力側は、どんなことをしても(暴力以外)、服従側が無抵抗に従順になるのが面白くなり、だんだんエスカレートしていきます。それが快感になっていくのです。実験上の役割であることを忘れて、権力側はまるで本当に権力者と錯覚し始め、服従側は役であるにもかかわらず、じっと耐えるうちに惨めな卑屈者になっていく心理に陥っていくそうです。もし、こんな状況がずっと続いたら、両者ともその役になりきってしまう精神構造を人間は持ち合わせているとのことです。
タクシーの乗客も、この不況の世の中、どんな嫌なことがあるのかしれませんが、密室無抵抗の運転手を殺したり暴行するのが多発しているのは、相手が背中を向けた服従者だと見て、自分を権力者と錯覚してしまうのでしょうか。権力(暴力)を振るうことに「快感」を感じてしまうのでしょうか。今は、タクシー内も運転手と客席との間に透明の隔壁を立てたり、小型ビデオを設置したりしているので、どうせ捕まってしまいます。強盗しようにも、運転手は大して売上金を所持していません。
FPがタクシー会社の社員に
私は、転職のさなか、ひとときタクシー会社に正社員で勤めていたことがあるのでよくわかります。といっても運転手ではなく、無線のナビゲーターです。オペレーター室でモニター画面を監視していて、客から乗車希望の電話が入ると、GPSで各タクシー車両が走っている道路上の位置を確認し、一番近い車両を無線で呼び出し配車するのです。
「○号車、応答願います。△△通り角右、3軒向かい左角曲がり右2、はす向かい隣り奥右3軒、××幼稚園下る3メートル左2軒目、山川様宅です」(もう忘れてしまいましたが、実際はもっと専門的な言い回しがあったような気がします。)
これだけのことを、電話で聞いた住所から即座に道路地図をモニター画面に現して、画面の地図を見ながら運転手に無線で伝えるのです。うまく伝わると、
「了解です。□□方面に向かいます」
と返信が入り、ほっとします。
しかし、私の場合、じつは相当な方向音痴で(これでよく採用されたなと思います。あとで採用者も失敗したと思ったのでは・・・)、たいていがトンチンカンな配車指示をしていたようです。
「どこそこ、~行って、~曲がって、~戻って、え~、あ~、まっすぐ~、そこらの3軒目です・・・」(私)
「・・・・・・」(運転手)
「応答願います・・・」
「・・・・・・」
「あの~、○号車、応答を・・・」
「んだあ?・・・・」
「え~と・・・」
「・・・・・・」
この「・・・・・」が、怖いのです。
しばらくしてから、オペ室に先ほどの運転手から電話がかかってくるのです。
「おまえな、ぜんぜん違うだろ、指示がよお。おかげでぐるぐる回っちまったよ。客がいねくなっちまったよ。おめえは、一日そこで無線の前に坐ってりゃあ、給料もらえるだろうが、こっちは、客一人乗せて何ぼなんだ。いいかげんにせえよ。おめえの声が無線で流れると不愉快なんだよ。今そっち行くから、待っていやがれ!」
こんなふうに、運転手に文句を言われるのはざらでした。それが嫌で(というより、どうしようもない方向音痴なので)1ヵ月で辞めてしまいました。私も単に収入のつなぎのつもりでしたから。もともとファイナンシャル・プランナーがタクシー会社の社員になるのが無理でした。採用するほうも私の履歴書を見て「ほう、ファイナル・プランターですか、よく知ってますよ」と言うくらいですから、双方が間違っていたのです。(ファイナル・プランター・・・最後の植木鉢、か?)。
ちょっと脱線しましたが、ということで(どういうことで?)、運転手たちが一日にどれだけの売上を上げて、どれだけの釣り銭を持ち、現金をいくら所持しているかは見当がつきます。はっきり、言います。タクシー強盗したって、捕まるのは明々白々だし、金額的にも割りが合いません。だからといって、もっと大きな金を狙えなんて言いませんが。
ついでに言いますと、タクシー会社に勤める前は、失業してどうしようもなくなったら、「タクシーの運ちゃんがあるさ」と、あたかも最後の砦のように、よく言われたものです(私もそれを地でいったようなものです)。が、私は懲りました。タクシー強盗・暴行事件が頻発しているからではありません。自分の土地勘のなさに呆れてしまったからです。
権力者役と服従者役
どうやら人は、相手が無抵抗の状況にいるのを眼の前にすると、暴力や権力を振るいたくなる欲求を持っているようです。かつて読んだものによれば、ある心理学の実験で、もともと同等の人たちを半分に分け、一方の集団を権力側、一方の集団を服従側というぐあいにそれぞれの役になりきらせ、同室に入ってもらいます。最初は全員、遠慮がちにしていますが、権力側の役が少しずつ力を出していくと、服従側の役は抵抗せずじっと我慢しています。
やがて権力側は、どんなことをしても(暴力以外)、服従側が無抵抗に従順になるのが面白くなり、だんだんエスカレートしていきます。それが快感になっていくのです。実験上の役割であることを忘れて、権力側はまるで本当に権力者と錯覚し始め、服従側は役であるにもかかわらず、じっと耐えるうちに惨めな卑屈者になっていく心理に陥っていくそうです。もし、こんな状況がずっと続いたら、両者ともその役になりきってしまう精神構造を人間は持ち合わせているとのことです。
タクシーの乗客も、この不況の世の中、どんな嫌なことがあるのかしれませんが、密室無抵抗の運転手を殺したり暴行するのが多発しているのは、相手が背中を向けた服従者だと見て、自分を権力者と錯覚してしまうのでしょうか。権力(暴力)を振るうことに「快感」を感じてしまうのでしょうか。今は、タクシー内も運転手と客席との間に透明の隔壁を立てたり、小型ビデオを設置したりしているので、どうせ捕まってしまいます。強盗しようにも、運転手は大して売上金を所持していません。
FPがタクシー会社の社員に
私は、転職のさなか、ひとときタクシー会社に正社員で勤めていたことがあるのでよくわかります。といっても運転手ではなく、無線のナビゲーターです。オペレーター室でモニター画面を監視していて、客から乗車希望の電話が入ると、GPSで各タクシー車両が走っている道路上の位置を確認し、一番近い車両を無線で呼び出し配車するのです。
「○号車、応答願います。△△通り角右、3軒向かい左角曲がり右2、はす向かい隣り奥右3軒、××幼稚園下る3メートル左2軒目、山川様宅です」(もう忘れてしまいましたが、実際はもっと専門的な言い回しがあったような気がします。)
これだけのことを、電話で聞いた住所から即座に道路地図をモニター画面に現して、画面の地図を見ながら運転手に無線で伝えるのです。うまく伝わると、
「了解です。□□方面に向かいます」
と返信が入り、ほっとします。
しかし、私の場合、じつは相当な方向音痴で(これでよく採用されたなと思います。あとで採用者も失敗したと思ったのでは・・・)、たいていがトンチンカンな配車指示をしていたようです。
「どこそこ、~行って、~曲がって、~戻って、え~、あ~、まっすぐ~、そこらの3軒目です・・・」(私)
「・・・・・・」(運転手)
「応答願います・・・」
「・・・・・・」
「あの~、○号車、応答を・・・」
「んだあ?・・・・」
「え~と・・・」
「・・・・・・」
この「・・・・・」が、怖いのです。
しばらくしてから、オペ室に先ほどの運転手から電話がかかってくるのです。
「おまえな、ぜんぜん違うだろ、指示がよお。おかげでぐるぐる回っちまったよ。客がいねくなっちまったよ。おめえは、一日そこで無線の前に坐ってりゃあ、給料もらえるだろうが、こっちは、客一人乗せて何ぼなんだ。いいかげんにせえよ。おめえの声が無線で流れると不愉快なんだよ。今そっち行くから、待っていやがれ!」
こんなふうに、運転手に文句を言われるのはざらでした。それが嫌で(というより、どうしようもない方向音痴なので)1ヵ月で辞めてしまいました。私も単に収入のつなぎのつもりでしたから。もともとファイナンシャル・プランナーがタクシー会社の社員になるのが無理でした。採用するほうも私の履歴書を見て「ほう、ファイナル・プランターですか、よく知ってますよ」と言うくらいですから、双方が間違っていたのです。(ファイナル・プランター・・・最後の植木鉢、か?)。
ちょっと脱線しましたが、ということで(どういうことで?)、運転手たちが一日にどれだけの売上を上げて、どれだけの釣り銭を持ち、現金をいくら所持しているかは見当がつきます。はっきり、言います。タクシー強盗したって、捕まるのは明々白々だし、金額的にも割りが合いません。だからといって、もっと大きな金を狙えなんて言いませんが。
ついでに言いますと、タクシー会社に勤める前は、失業してどうしようもなくなったら、「タクシーの運ちゃんがあるさ」と、あたかも最後の砦のように、よく言われたものです(私もそれを地でいったようなものです)。が、私は懲りました。タクシー強盗・暴行事件が頻発しているからではありません。自分の土地勘のなさに呆れてしまったからです。