春. 夏. 秋. 冬. 河童の散歩

八王子の与太郎河童、
つまづき、すべって転んで、たちあがり・・。
明日も、滑って、転んで・・。

酸漿に、母の指。平岩弓枝さん

2017-08-03 20:09:33 | 散歩

【 御宿かわせみ7 ・文庫版・ 】
【 酸漿は殺しの口笛 】 平岩弓枝氏から。


葛西はそのころの江戸の市民にとって食膳の宝庫であった。

葛飾の小松菜は日本一の美味といわれたし、寺島村の采も悪くない。
隅田村の芋に綾瀬川の蜆、向島は鯉が名物だし、三囲下の白魚は珍味であった。
朝一番に、採れたてを小舟に積んで大川を漕ぎ下がって売りに来る。

若い女が、お吉の渡した竹笊にせっせと茄子を入れている。

まだ子供子供した彼女の口元が動くと、そろりと酸漿が見えて、
ぎゅっと音が押し出される。
口の中で酸漿を鳴らしながら仕事をしているのが、
如何にも百姓の小娘らしかった。


畝源三郎は、
「おい、紫蘇の餅はあるか」と声をかけた。

「あったら十ばかりくれないか」

るいの部屋に引上げて来てそこに香ばしい煎茶が出た。
「寺島村は紫蘇が名物なんです。ですから、春はよもぎ餅、今頃は紫蘇餅、
秋になりますと芋の案の入った餅もなかなかうまいものです」
畝源三郎はいよいよ得意で、
・・・・・・

あんた、酸漿が好きなの」
もう子供というでもない年頃なのにと思いながら、るいが
声をかけると、うつむいたまま、低い返事が戻ってきた。
おっ母さんの思い出だもんですから・・・・」
弁解するように、つけ加えたのを訊いてみると、どうやら
子供の時分に、母親が酸漿を作ってくれたのを、懐かしんでのことらしい。
赤く熟した酸漿の実を、指のでよく押して、中身を柔らかくし、
小さな穴から芯ごと上手に抜き出してしまうと、
酸漿の実は皮だけの、ちょうど風船のようになる。
それをの舌の上に載せて押すと、実の中へ入っていた空気が
小さな穴から外へ押し出されて独特の音を立てる。
女の子なら、誰でもやったことのある、玩具の一つであった。

酸漿には、故郷の匂いがします。(toyo0181)

コメント (2)
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