鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

唐草文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2011-10-13 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 (鍔の歴史)


唐草文図鐔 古金工

 室町時代から戦国時代にかけての鐔で、四方に猪目が透かされた太刀鐔のような木瓜形をしているが、小柄笄の櫃穴が設けられており、打刀拵のものであることが判る。山銅地を薄手に仕立て、石目地を全面に打ち施して、渦巻きとも唐草とも言いがたい文様を毛彫、あるいは文様打ち込みの手法で施している。簡素な表現ながら味わい深いのは時代性であろう。時が積み重なって山銅に自然な色合いを生じさせているのである。
 さて、この唐草文の不定形な組み合わせ、あるいは構成は、如何なる意味を含んでいるものだろうか。文字や梵字を暗示しているようにも感じられるし、獅子など霊獣を想わせる部分もある。単に文様を施してものとは考えられない。そのような不思議さも魅力である。83ミリ。


花文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2011-10-12 | 鍔の歴史
花文図鐔 (鐔の歴史)


花文図鐔 古金工

 山銅地を薄手の板鐔に仕立て、古拙な魚子地とし、毛彫を切り込んで葉花を文様表現した作。魚子地は魚子というには至らない石目地状。花弁の数は六から八枚である点をみると、さほど写実性は気にしていないようだ。
 室町時代から戦国時代にかけての実用の鐔の一例。実は、さらに簡素な鐔も存在する。鉄の板鐔が刀匠と呼ばれるものだが、その山銅地と考えれば良い。鉄味の魅力が鉄鐔の基本であるなら、このような古金工の魅力は、粗製の銅の持つ渋い肌合いに他ならない。文様も、後の洗練されたそれとは異なって古寂びた味わいが格別である。86ミリ。

唐草文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2011-10-11 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 (鍔の歴史)


唐草文図鐔 古金工

 古典的な表現になる唐草文の鐔。このような先端が大きく丸まって、大きさが揃ったように連続する唐草文は、時代の上がる目貫や小柄笄などにも例がある。この鐔は、山銅地に極端に深い片切彫風の彫法で唐草文を彫り込み、他には一切の装飾を施さない、渋い地金と表現手法が魅力の室町時代の作例。造り込みは簡素な板鐔で、櫃穴に特徴がある。太刀から打刀に以降しつつある中でこのような形態となった。もちろん地金の質感が時代の判断の大きな要素であるが、この形状であるから古いというわけではない。注意されたい。78ミリ。

秋草に鹿図鐔 古美濃 Komino Tsuba

2011-10-09 | 鍔の歴史
秋草に鹿図鐔 (鍔の歴史)


秋草に鹿図鐔 古美濃

 銀地を魚子地に仕上げ、文様部分が極端に高い美濃彫独特の描写方法で秋草に鹿の戯れる、まさに豊穣の秋の様子を表現した作。萩と鹿の取り合わせは古歌にあり、我が国の秋を象徴する景色の要素。この鐔ではさらに菊花と女郎花を組み合わせ、印象を深めている。
 美濃彫の鐔は、多くが赤銅を素材とし、金銀の色絵を施している。ここでは銀地に替え、金と赤銅の色絵で常に見る風合いとは異なる印象を鮮明にしている。
 萩と菊の咲き乱れる合間を鹿が駆け抜ける、という場面かというと、そうではなさそうだ。鹿と秋草は各々が欠くことはできない素材で、風景としては単なる組み合わせ。むしろ秋草という文様の中に鹿を点在させている。確かに秋草だけでも鐔になる。文様表現として見事に成功している例である。73ミリ。

秋草図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2011-10-08 | 鍔の歴史
秋草図鐔 (鍔の歴史)


秋草図鐔 古金工

 表裏の様子を変えている作。以前にも紹介したことがある。表は秋草、裏唐草風の菊。判り難いが耳には網文が廻らされている。確かに秋草図は風景の一部といった風情もあるが、唐草風菊花は明らかに文様。耳にも文様が施されているところなども含め、室町時代前期から中期にかけての、所謂古金工の優れた感性を思い知らされる。赤銅魚子地高彫金銀素銅色絵。52ミリ。□

藻貝図目貫 古美濃 Komino Menuki

2011-10-08 | 鍔の歴史
鍔の歴史



藻貝図目貫 古美濃

 藻草を唐草状に連ね、これに貝を散らして文様としている。赤銅地を打ち出し、図の周りを透かし去って主題の際立たせている。裏面からの鑑賞で、際端を絞っており、際端部分や透かし抜いた端から、かなり薄手であることがわかる。これが時代の上がる目貫の特徴でもある。目貫だけでなく、高彫据紋された笄や小柄も、同様の打ち出しになる塑像であることが多い。 拡大写真を鑑賞してほしい。表面の質感、微妙な魚子が打ち施された海栗の表皮、毛彫の強弱抑揚など、所々の露象嵌が落ちてはいるが、それも景色となっている。



藻貝図小柄 古金工

 桃山頃として紹介したことがあるも、もう少し時代を上げて考えても良いと思う。笄に施されていた文様部分のみを切り出して小柄に直したもの。二点あるが、同じような造り込みと表現であり、時代観も同じことから、ごく近い金工の可能性がある。藻貝を貝の写実として捉えた表現したものではなく、明らかに文様表現で、その魅力が濃密。実用の金工作品は、表面が磨耗し、金の色絵が剥がれてしまうことがある。それを再利用し、しかも古風な味わいをそのまま残して美観とするわけであり、江戸時代の武士の美意識には頭が下がる思いである。

波に菊紋丁子文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2011-10-06 | 鍔の歴史
鐔の歴史

 装剣金具に施される図柄や文様には、主題のほかに地文がある。良く知られているのが魚卵のような小さな半球を敷き詰めた魚子地、様々な鏨の打ち込みによるざらついたような肌の石目地、刀匠や甲冑師鐔の表面に残される鎚の痕跡は鎚目地、細い線状の鑢目、さらには、波を意匠したもの、雲を意匠したものなど創造的文様は多数ある。
特に主題とされるわけではないが、図柄の大きな要素となるのが唐草文。歴史も古い。ここでも以前、唐草と葡萄図を関連させて紹介したことがある。唐草文のように、文様は絵画表現の主題にはならないが、文様だけでも装飾性は頗る高く、しかも、時には文様に意味が見出される場合もある。文様表現された鐔あるいは装剣小道具として考えると、主題の明確な図柄の作に比して軽んじられる傾向があるも、否。見直して欲しいし楽しめる。
 古くは、先に紹介したように唐草文などが主たる文様の要素であり、美濃彫のように植物を題に採っても唐草文状に表現することがある。家紋も文様の一つで、家紋風文様を施した例は甲冑師や刀匠と呼ばれる板鐔、所謂応仁鐔にも家紋があり、平安城象嵌や与四郎鐔などにもみられる。古い正阿弥や尾張、金山などにも透鐔の心象表現された図柄の中にも文様は潜んでいる。菊花形の放射状透鐔は、鐔そのものが文様としても捉えられる。
 さて、戦国時代後期から桃山時代、文様は二つの方向性を鮮明にしていった。一つは装飾性を強めたもの。もう一つは明確な主張を含む、意味の鮮明な文様表現である。もちろん、葡萄と栗鼠の組み合わせで豊かな自然の恵みを意味する図としたように古典的な意味合いを持つ文様が、同時に「武道に立す」と読ませることも行われている。また、古くからある貝の図は、貝の読みが解、戒、快、甲斐、開、魁、改などに通じるためといわれている。


波に菊紋丁子文図鐔 古金工

 写真の鐔は、葵木瓜形の造り込みで、古典的な太刀鐔の様式ながら、室町時代に入ってからの打刀様式の拵に装着されたもの。地文である波は、写真の状態で正、即ち波頭が上に位置する。波文は、他の図柄の背景に描かれることが多い。源平合戦図では、宇治川を描く要素とされ、舟戦の背景である瀬戸内の波は恰好の表現素材とされた。この鐔では波飛沫を金の点象嵌で散らし、菊紋と丁子文を配している。もちろん鐔の透かしと造形も立つ波のような、あるいは生命感のある蕨手のような表現で、見事に伝統的な葵木瓜と猪目を構成しているのである。この創造性の高さを改めて確認し、作品を楽しみたい。一般に、室町時代も初期の古金工は拙いと考えられがちではあるが、決して感性と技術が低いものではないことを証している。70ミリ。□

鹿図鐔 乙柳軒味墨政芳 Masayoshi Tsuba

2011-10-05 | 鍔の歴史
鹿図鐔 (鍔の歴史)


鹿図鐔 乙柳軒味墨政芳(花押)

 政芳は浜野家の五代目。この鐔は鉄地高彫に金朧銀の象嵌の手法。風景図をも得意とした奈良派だが、この作を見る限りは奈良の風合いは薄れている。時代は幕末、新たな作風を望まれてのものであろう。ただ、精巧で精密な彫刻技術は確かにあり、鹿、川、遠くの山並み、立ち木という四つの風景の素材がバランスを保っている。様々な金工流派が技を競い合い、個性的な作品を創造しようと切磋琢磨していた頃の作である。78ミリ。

桜樹に牛図鐔 乙柳軒味墨 Miboku(Kiyonobu) Tsuba

2011-10-03 | 鍔の歴史
桜樹に牛図鐔 


桜樹に牛図鐔 乙柳軒味墨(花押)

 浜野家四代清信(きよのぶ)の作品。奈良派では安親に始まる鄙びた農村風景に題を求めた作を製作しており、この流れは多くの流派に影響を及ぼしている。この鐔において農夫を描かないのは、この鄙びた景色に瀟洒な風合いを求めたからであろう、表裏にわたって桜を描き、主題は牛と桜の二者であることを鮮明にしている。朧銀地高彫金赤銅色絵。政随に始まる浜野家の当主は乙柳軒を用いている。74ミリ。

鷺図鐔 後藤清明 Kiyoaki-Goto Tsuba

2011-10-01 | 鍔の歴史
鷺図鐔 (鍔の歴史)


鷺図鐔 後藤清明(花押)

 添え銘として政随図とあり、その写しであることが分かる。ただ、本歌は、この鐔の通りではなく、鉄地竪丸形。題意を借りて独創を加味したと考えれば良い。金工として、単なる写しではなく、名工を越えようとする意識が鮮明である。朧銀地高彫色絵象嵌。日月を表裏に描き別けている点が心象的で面白い。
 清明は後藤清乗意絵の工。江戸時代後期の後藤の系流においては、伝統を突き破った作も製作している。70ミリ。