日本国憲法への緊急事態条項の導入が声高に言われ始めたのは東日本大震災の直後だった。自民党の改憲案によれば緊急事態条項は次のような内容を持つ。
「内閣総理大臣が判断しさえすれば、緊急事態を宣言出来る。宣言すれば内閣は法律と同じ効果を持つ政令を発せられる。そして国民は国などの指示に従う義務が生じる。」
これはいったい何を示すか。内閣総理大臣の判断一つで、議会が形式化すると言うことだ。戦争中の国家総動員法のように、国民を戦争に動員するのも可能だ。
これは戒厳令にほかなならない。外国の例を見ると戒厳令は軍隊の出動とセットになっている。基本的人権も制限される。自民党の改憲案では「基本的人権は法律で制限できる」と明記してあり、緊急事態条項に「基本的人権に配慮する」とあるものの極めて疑わしい。
もう一つ問題なのは共謀罪だ。複数の人間が集まって政府批判をしただけで検挙される。法治国家の前提として罪刑法定主義というものがある。実際に犯した罪によって裁かれると言うものだ。しかしこの共謀罪は心、思想を裁く。罪刑法定主義に反する。政府批判が封殺される。
九条の会の小森事務局長が比喩として言ったが「8,15を語る歌人のつどい御一行様、全員検挙。」という事態もありうる。
この緊急事態条項と共謀罪は、基本的人権を制限し、政府批判を取り締まる。報道、言論は委縮し、議会制民主主義は形骸化するだろう。その時まさに戦争が始まる。
緊急事態条項はナチスの全権委任法に匹敵し、共謀罪は治安維持法に匹敵する。こういうことが公言されるにつけ思い出すのは麻生財務大臣の発言だ。
「ワイマール憲法はいつの間にかナチス憲法に変わっていた。これに学べないか。」とんでもない独裁政治志向だ。
(ちなみにナチス憲法は存在しない。ワイマール憲法を停止した全権委任法がある。憲法を否定する法律は認められないと言う立憲主義が民主主義と両建てに語られるようになったのはここから来ている。)
参考文献「憲法を変えて『戦争のボタン』を押しますか?」(高文研刊)