「星座α」21号 作品批評
今、この時に
100年に一度の感染症が世界的に流行している。かかる時だからこそ、抒情を大切にしたいと思う。今号も秀作揃いで、選歌に迷った。
・北欧のアイガーの草原の歌
雄大な景が浮かび、歌柄が大きい。映像だろうが、実景を素材にしても、これだけの歌が詠める。
・朝の日の差し込むなかで浮かぶ記憶の歌
・軒下の氷柱のように生きたいという歌
・安楽死の認められるスイスの冷たく深い湖の歌
・深い寂しさを見抜いたように猫が近付く歌
鋭敏な感覚で世界を捉え、自らを凝視している。自分を深く見詰めているのだ。それが歌の重量感となっている。難解な語をつかわなくても、ここまで詠める。
・かつてはなぜ君のかたわらで安堵して生きていたのかという歌
・スイス氷河を共に歩いた夫とハイキングをする歌
・分別のつく君が寂しい横顔を見せる歌
この3首を相聞と見た。相聞は何も恋の歌ばかりではない。親しい人への信愛の情を歌ったもの。甘くなりがちだが、これらの作品には甘さが感じられない。人間への洞察力が深いからだ。それは自己を深く見つめるのと共通している。
・すかっと晴れる空を見ながら感染拡大の世を生きている歌
・寒鰤の卵を取り出す歌
日常を素材にしても歌は詠める。要は着眼点。