岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

「星座α」21号:相聞10首(2)

2020年07月09日 21時08分08秒 | 岩田亨の作品紹介
「星座α」21号より。相聞10首(2)抄

・告白をじかにせんとて会いにゆく特急列車にとび乗ってまで

 自分でも信じられない決心だった。特急列車を予約してまで会いに行ったのだ。「恋人になるか一生の友だちになるか、わからないけれど、直にそれを伝えに来た」たしかこう言ったと記憶している。相手は何度もわざわざ来た理由を僕に尋ねた。何度も聞きたい言葉だったのだろう。僕は何度もこの言葉を繰り返した。


・案内(あない)する汝(なれ)のあとよりついてゆく何を話すか考えながら

 女性の前では緊張する方だったから、何とも不器用な男に映っただろう。最初に撮ったツウショットの写真は、緊張で僕の顔は歪んでいた。50もとうに過ぎてなんともはやだった。


・あふれ咲くコスモスを背に並びたり身を寄せ合える静香とわれは

 行先は相手任せだったが、まるで静香の選んだ場所は、僕が喜びそうなところばかり。古民家の村を訪ねたが、民家の玄関にコスモスの群落があって、花があふれ咲いていた。この古民家とコスモスを背景に、ツウショットの写真を撮った。通りすがりの人にシャッターを切ってもらった.

・戦争に子どもらを送るまいとしてわれと静香はデモに連なる

 これが二人の出会いだった。事前に連絡を取り合い、国会前の集会で待ち合わせた。2005年の「安保法制」成立の年だった。参加者は数万。ここで落ち合えたか、後日の集会で初めて会ったかは記憶が定かではない。

 この50首を創作するに当たり、尾崎主筆に相談した。「あら、岩田さん、恋でもしたの?アララギ系には、いい相聞がないから頑張ってね。明星派の作品を読んで研究してはどう?」という言葉だった。

 そういえば、佐藤佐太郎の作品にも尾崎左永子の作品にも、相聞がない。そこに反戦集会という社会詠的要素がはいっているのだから、新機軸には違いない。

 尾崎主筆の指導はこれだから、面白い自分が詠まない素材であっても、「短歌にしたいのなら、やってみなさい。」こういう態度で接してくれる。自分と違うものを排除はしない。それでいてアララギが培ってきた表現方法は、伝えてくれる。

 伝統を引き継ぎながら、新しいものを開拓する。これが限りなく楽しい。





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