細田傳造著 詩集『水たまり』 書肆山田刊
今年の元旦早々、詩集が届いた。細田傳造著『水たまり』だ。表紙に赤土の道が続き、「たしかにこの道を無我夢中で駆けて往った。」と帯文にある。
おそらく作者が過去を回想して、忘れられないことを作品化したのだろう。
この詩集には34編の詩篇が収録されている。「詩人の聲」の会場の一つ、ギャルリー東京ユニマテには、作者の第一詩集が置いてある。それは柔らかい語感とリズムを持った詩集だった。それに比して、今回の詩集は趣きが全く違っている。それに戸惑い、今日まで書評が書けなかった。
収録されている34編の詩篇にはどれも独特の特徴がある。それは作品中に使用されているキーワードを挙げて行けば明らかだ。
「自警団」「帝都に戒厳令」「シベリヤ帰り」「戦時予備役」「全羅南道」「兵隊」「朝鮮訛り」「兵器」「戦争」「ミサイル」「ケンペー大尉」。
アジア太平洋戦争につながる語句が頻出する。韓国語もかなり使われている。読んでいくと様々な連想が浮かぶ。
関東大震災での、朝鮮人虐殺。政治家がファシストの銃弾に倒れた2・26事件。朝鮮人への差別。朝鮮の植民地支配。それへの異議申立て。
作者は1943年生まれ。昭和18年に生を受けている。戦中世代とは言えないが、戦争の爪痕が生々しい時期に幼年時代を過ごした。おしらく作者の真相心理の深くに長年眠っていたものを、作品化したのだろう。
こういう表現は、1970年代によくあったという人もいる。だがこういう表現は今ほとんど見ることがない。
そういう意味で、過去の傾向を21世紀に蘇らせた詩集とも言えよう。まして今安倍政権のもとで起こっていることを考えると、こういったメッセージ性の強い詩集があってもいいと思う。しかも、この詩集一巻を貫くテーマでもある。思いつきで選んだ主題ではなかろう。
作者が長年、心の底に秘めていた思いの作品化とも言えよう。
この詩集は韓国で翻訳されると作者より聞いた。その後の展開も聞きたいと思う。