岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

かがり火に浮かぶ人影あまたあり 山伏五人階をおり来る

2010年02月15日 23時56分56秒 | 岩田亨の作品紹介
2001年2月「NHK歌壇」佳作。題詠「階段または階」。前年に引き続き5回目の佳作。(うち1回は入選)

 病気療養に入る前、栃木県日光市で正月を迎えるのが恒例だった。

 日光は多くの寺社で有名だが、なかでも輪王寺の年越しは迫力がある。三仏堂という仏殿の前の石段下の広場に大きな護摩壇をすえ、これまた大きな護摩を焚く。

 縦横2メートル・高さ3メートルほどの井桁につみあげた杉の角材の上にさらにヒノキかヒバの葉がうづ高く積まれ、さらにその周りに「結界」を示す笹竹が四隅に立てられて注連縄が張られている。

 大晦日の午後11時を過ぎると法螺貝を先頭に山伏が5人ほど階段を降りて結界の内側に入り、呪文を唱えながら積み上げられた杉の角材とヒノキの葉の小山のまわりを巡る。

「般若婆羅密多・・・」「リン・ピョウ・トウ・シャ・カイ・ジン・レツ・ザイ・ゼン」「センタ・マカロシア・ソワタラャ・ンタラタ・カンマ・・・」

 一通りの所作が終わると、石段の脇にある篝火から大きな松明で護摩に点火される。炎と煙の饗宴がはじまる。

 燃え盛る炎に適宜水をかけながら角財とヒノキの葉をいぶし、煙を出す。どうやら「炎と煙が霊験あらたか」ということらしい。やがて山伏たちは人々が持ち寄った、古い破魔矢・達磨・御守・絵馬などを炎に投入し始める。呪文を唱え続けながらである。気温は零度近く。足の裏からしんしん冷える。

 そんな場面を詠んだ。情景が浮かんだということが佳作になった理由だろう。「夜の林檎」の「簾外抄」に配列した。遭遇した劇的場面を素材とすることも作歌の方法の一つであると思う。



この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 僕の日本語論:敬語の考察 | トップ | 齊藤茂吉31歳:ははそはの... »
最新の画像もっと見る

岩田亨の作品紹介」カテゴリの最新記事