詩集『二月の魚 オオカミの月』響文社刊 大島龍著
大島龍は画家であり詩人である。詩画集、画文集、戯曲集も刊行している。だがこの詩集を読むと21世紀の吟遊詩人、旅の詩人の印象が立ち上がってくる。
この詩集には「旅のはじめに」「Horizon」「歩行する、神の舌、谺」「オリジン」「銀ーリンリン」「太郎」「川、海とであう」「『時』は来たれり」「レッドリスト2012」の10章に分かれ、33篇の作品が収録されている。
作品には森、海、川、オオカミ、雪、猫、鳥が出てくる。だがこれはリアリズムではない。モダニズムでもない。独特の表現だ。言うならば「大自然に含まれるすべてのもの」への畏敬の念の表現された詩集だ。
舞台はアイルランド、北海道と変わるが、主たる舞台は北海道。地名の入っていない作品も厳寒の北国の印象が強くだされる。だが冷涼感はない。言葉に温かみがある。絶滅危惧種、日本で絶滅したオオカミへの温かい愛情があるからだろう。
大島龍は大自然の中の生きとし生けるものを作品化する。僕の歌集『聲の力』のなかでも「マタギの爺」に共感したと感想を送ってくれた。
文学はやはり社会や人間への愛情がなければいけないと思う。「アナキズム」の詩があるが「アナキズム」は人間の解放のために国家の廃絶を主張するものだ。人間への愛情が根底にある。
大島龍と話をし「聲」を何度か聞いた。顔は彫りが深いが、聲、言葉、話がやさしさに満ちている。詩集の最後に経歴が書いてあるが大した経歴の持ち主だ。海外での絵画の個展も度々開催している。だが決して自慢話はしない。聲も声量で勝負するのでなく、言葉を嚙みしめるように読んでいく。
「北の聲」の時は間の取り方、読み方を、教えてくれた。そういうやさしさが作品に出ている。この詩集にサブタイトルを付けるなら、「大自然への賛歌」だろう。