「昭和4年のはじめに健康の衰えを自覚して診察を受け、肉食を節して養生することになり・・・」
これは岩波文庫「斎藤茂吉歌集」の解説の引用だが、ときに茂吉は47歳だった。50歳前後に体がしんどくなるのは今も昔もかわらぬらしい。佐太郎が入院し病院で越年したのは56歳のときだった。とりわけ茂吉は幼いころから体がよわかったそうだからなおさらのことだろう。
さて、僕の第二歌集「オリオンの剣(つるぎ)」が完成した。この場で「帯文」と「自選五首」をご紹介。斎藤茂吉と佐藤佐太郎の業績に「新」が積めただろうか。
・帯文(全文):
見る。触れる。嗅ぐ。耳を澄まし、感じる。
< もの >と< 言葉 >の狭間に立ち、
こうした事々を歌に写しかえていく。
そこには歌人が持てる力を
すべて注ぎ込んでの戦いがある。
作者に転機をもたらす第二歌集。
・自選五首(帯に掲載):
*オリオンは剣(つるぎ)を持つや寒々と冬の夜空の漆黒ふかく*
*おだやかに星を見上げることもなくただ一心にキーボード叩く*
*埋み火のごとき心よ日曜に日すがら読めり北欧神話*
*玉眼のもはや光らぬ仏像の古りたる指が虚空を差せり*
*死がそこにあらんほどまで闇深くことさら響くミミズクの声*
・あとがき(抜粋):
「歌集名は< オリオンの剣 >としました。巻頭詠に由来しますが、もうひとつ理由があります。
< 星座 >誌上で私は< オリオン座 >という欄に名を連ねていますが、今は病気療養中。その闘病を含め私の< たたかい >はこれからも続きます。オリオンが持つのは棍棒ですが、敢えて< 剣 >としたのです。・・・今の時点での持てる力を全て注ぎこんだ思いがします。・・・」
・2月25日発送開始だったが、もうすでに全国からメール・電話・葉書・手紙を頂いた。この場をお借りしてお礼申し上げたい。
ある人の批評。
「言葉が凝縮されていて、作品のむこうに人間のドラマが見えるようだった。一つ一つにテーマがあって、短編小説を読んでいるようだった。」
これは嬉しい批評だった。ひとつは僕の作品の文学性が読者に伝わったという意味で。もうひとつは「作品のむこう(=背後)に人間ドラマが見える。」これは佐太郎のいう象徴だ。
つまり僕の作品に文学性と象徴性があると認められたこと。第一歌集「夜の林檎」は、「面白い」と言われる反面、「もう少し余韻が欲しい」とか「時々少し考え過ぎる」とも言われた。(ある結社誌(心の花系)と「角川短歌」の書評)
だから文学性と象徴性が認められたのは進歩の証とも言える。「象徴」「余韻」これらは茂吉や佐太郎が繰り返し述べた「暗示」のことだ。
そうそう。こういう葉書もあった。
「第一歌集と違って、オーラを発する一集になっていると思います。」
この「混沌」の時代に「地道なリアリズム」(岡井隆)になっただろうか。
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角川書店刊 2500円(本体2381円)
申込み:角川学芸出版
03-3817-8536