佐藤佐太郎の短歌に初めて出会ったのは、短歌を始めたその年。角川書店の「佐藤佐太郎秀歌」(秋葉四郎著)だった。印象残った作品をいくつか。
・火消壺に燠を収めて眠るときあきらめに似て一日おわらむ「歩道」
アパートの一室が目に浮かんだ。そこには都会に住む青年の孤独が感じられた。
・戦いはそこにあるかと思うまで悲し曇りのはての夕焼け「帰潮」
水平線の向こうの戦場に思いを馳せているようすが手に取る様に分かった。「この戦いは何でもいい」と家庭内の不和もこれにはいると岡井隆が鑑賞文に書いていたが「戦い」とあるからは戦場だろう。
・階くだり来る人あるてひとところ踊場にさす月に顕わる「地表」
幻想的な夜の情景が浮かぶ。従来の写実派にはなかった作風だ。
このような作品が記憶に残った。巻末の年譜をみて佐太郎の年齢を確かめた。作品の特徴は難解な言葉がない。歌意が明確。抒情の掘り下げが深い。やたら古風な言葉は使っていない。
そして佐太郎の年齢と自分の年齢を比べた。「これなら僕にも詠める。」不遜にもそう思ったのだが、豈はからんや、なかなか、いや相当難しい。ここからが僕が本格的に短歌にのめりこんでいくきっかけだった。