・悲しみの余韻のごとくつばひろき帽子が白く遠ざかりゆく
「春雪ふたたび」所収。
相手は誰か詠みこまれていない、別れた場所も詠みこまれていない。「悲しみ」だけに焦点が当てられ、他は「捨象されている」。「悲しみが際立つ」。
悲しみの象徴。「白き帽子」。心を形にしている。その帽子が「遠ざかりゆく」。これが余韻だ。
ただ「遠ざかりゆく」ではなく「白く遠ざかりゆく」がいい。なかなか思い切った表現だ。
完成度の極めて高い作品。尾崎左永子の代表作。「NHK歌壇」でも「選者の一首」として紹介されていた。