「星座85号」ブナの木通信 (作品批評)
新年早々、ビットコインが暴落。日本ペンクラブの新年会では、「キナ臭い時代となった」と吉岡忍会長の挨拶。かかる時代だからこそ、人間の抒情を大切にしたい。
(砂時計を見て涙する歌)
余程、悔しい事か悲しいことがあったのか。また人間は美しいものを見ても時に涙を流す。涙が出るという歌だが泣き言になっていない所がいい。
(戦乱の時はるかな琵琶湖北岸の歌)
琵琶湖の北岸。湖北11面観音などで知られた地域。戦乱を避け、村人らが仏像を守ったとも伝わる。そんな歴史の厚みと、人間のたくましさを感じさせる作品。
(真っ青な水平線から静かな波が寄せる歌)
素直な叙景歌。しかしそこには作者の穏やかな心情が込められている。
(仕事を終えた後の疲労感の歌)
人間の特性は働くこと。家事労働も、ボランティアも働くことに変わりない。人間らしい営みを終えた後の充足感がここにある。
(夜に散る山茶花の歌)
かすかなことにも心を動かすのも人間。細やかな感受性が表現の裏にある。
(クレーンの伸びた先の空の歌)
この作品も又、細やかな人間の感受性に裏打ちされている。作者はアンテナを張り巡らしている。
(深夜、詫び状をようやく書く歌)
失敗するのも又、人間。自分の過ちを認めるのは特に難しい。それに苦悩した作者像が浮かび上がる。
(野良猫がねぐらを変えて生きてゆく歌)
人間と同様、動物もたくましく生きる。否、人間も逞しく生きる動物の一つか。
(干し柿の縮みゆくのを仰ぎ窒正月を迎える歌)
率直に喜べる作者は幸福だ。たとえ干し柿が縮んで行くとも。
選歌しながら、私の心も充実してゆく。