岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

ブナの木通信「星座85号」より茂吉と佐太郎の歌論に学んで

2018年04月12日 14時56分49秒 | 作品批評:茂吉と佐太郎の歌論に学んで
「星座85号」ブナの木通信 (作品批評)

 新年早々、ビットコインが暴落。日本ペンクラブの新年会では、「キナ臭い時代となった」と吉岡忍会長の挨拶。かかる時代だからこそ、人間の抒情を大切にしたい。


 (砂時計を見て涙する歌)

 余程、悔しい事か悲しいことがあったのか。また人間は美しいものを見ても時に涙を流す。涙が出るという歌だが泣き言になっていない所がいい。


 (戦乱の時はるかな琵琶湖北岸の歌)


 琵琶湖の北岸。湖北11面観音などで知られた地域。戦乱を避け、村人らが仏像を守ったとも伝わる。そんな歴史の厚みと、人間のたくましさを感じさせる作品。


 (真っ青な水平線から静かな波が寄せる歌)


 素直な叙景歌。しかしそこには作者の穏やかな心情が込められている。


 (仕事を終えた後の疲労感の歌)

 人間の特性は働くこと。家事労働も、ボランティアも働くことに変わりない。人間らしい営みを終えた後の充足感がここにある。


(夜に散る山茶花の歌)

 かすかなことにも心を動かすのも人間。細やかな感受性が表現の裏にある。


 (クレーンの伸びた先の空の歌)

 この作品も又、細やかな人間の感受性に裏打ちされている。作者はアンテナを張り巡らしている。


 (深夜、詫び状をようやく書く歌)

 失敗するのも又、人間。自分の過ちを認めるのは特に難しい。それに苦悩した作者像が浮かび上がる。


 (野良猫がねぐらを変えて生きてゆく歌)

 人間と同様、動物もたくましく生きる。否、人間も逞しく生きる動物の一つか。


 (干し柿の縮みゆくのを仰ぎ窒正月を迎える歌)

 率直に喜べる作者は幸福だ。たとえ干し柿が縮んで行くとも。

 選歌しながら、私の心も充実してゆく。




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