岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

短歌の道しるべ(7)

2012年11月13日 23時59分59秒 | 作歌日誌
短歌の道しるべ(7)

◎今月のワンポイント 10月

 *佐藤佐太郎の作品から(1)自然詠


 おほかたは雪消のなごりかはきつつ風過ぐるときほこりたちけり 「軽風」


 暮方に歩み来(こ)しかたはらに押し合ひざまに蓮しげりたり 「歩道」


 道のはてに盛りあがりたる荒海を見つつ来りぬ幾段(いくきだ)の波 「しろたへ」


 あぢさゐの藍のつゆけき花ありぬぬばたまの夜あかねさす夜 「帰潮」

 みづからの光のごとき明るさをささげて咲けりくれなゐの薔薇

 キリストの生きをりし世を思はしめ無花果(いちじく)の葉に蠅が群れゐる

 わが来たる浜の離宮のひろき池に帰潮(きてう)のうごく冬のゆふぐれ

 北上の山塊に無数の襞(ひだ)見ゆる地上ひとしきり沈痛にして 「地表」


 氷塊のせめぐ隆起は限りなしそこはかとなき青のたつまで 「冬木」


 冬山の青岸渡寺の庭にいでて風にかたむく那智の滝見ゆ 「形影」

 夕光(ゆふかげ)のなかにまぶしく花みちてしだれ桜は輝(かがやき)を垂る


 地底湖にしたたる滴かすかにて一瞬の音一劫(いちごふ)の音 「開冬」

 冬の日に眼に満つる海あるときは一つの波に海はかくるる

 おもむろに葦の根ひとつ移りゆく遠近になき水の明るさ

 垂る枝のうごくともなく降る雨に散るべき花はおもひきり散る

 おしなべてただ白けれど山のまの氷河の終る海はしづけし


 島あれば島にみかひて寄る波の常わたなかに見ゆる寂しさ 「天眼」 


☆景色だけを詠んでいるようで、これはすべて情景(心情を景色に託したもの)です。
 的確な言葉で表現されていて、眼の前に情景が浮かんできます。☆



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