「ブナの木通信:星座90号より
・(滾る湯に沈む花かつおの歌)
作者は深い悲しみのもとにある。掲出の作品以外でそれはわかる。その悲しみをありのままに受け止めようとする作者の姿勢。ここに作品の深みがある。
・(冬枯れの庭の歌)
春を告げる歌。結句の「ていねいに掃く」という動作のなかに作者の心情が顕れている。季節の変化を深く受け止めようとする作者像がそこにはある。
・(春の彼岸に墓石の雪を掘る歌)
雪深い北国ならではの春の彼岸。淡々と詠っているが、そこには祈りのようなものが感じられる。
・(津波を受けたアリーナの冬枯れた情景の歌)
東日本大震災より八年。未だ復興の途上なのだろう。荒涼とした情景の中に作者の悲しみが感じられる。
・(閉校の決まった学校から校歌が響く歌)
春になれば廃校となる。今頃は校歌を聞くこともないだろう。三月は別れの季節でもある。
・(寒椿の散る歌)
初春の情景に巧みに心理を重ねて詠んだ。心には形がないが、散っている椿の描写が心理の象徴となっている。
・(春雪の弾力を鋪道に感じる歌)
・(雪を被った山茱萸の歌)
・(雪解水の音の聞こえる日向に咲く福寿草の歌)
以上の三首。冬から春への季節の変化を詠った作品として優れている。
・(高遠の夜桜の歌)
高遠は信州の桜の名所。これは旅行詠だが絵葉書的にならなかったのがよい。
・(縁薄い人の葬送にゆく歌)
人を送る歌である。「風冷ゆる日」という表現に心理が投影されている。