確か東北地方の伝承を扱ったテレビ番組だったと思う。小学生の頃の、その遠い記憶をたどってみると土粥の作り方は次のようなものだ。
1・黒土を選んで土鍋に三分の一ばかり入れる。
2・時間をかけてよく水にさらし、不純物を洗い流す。
3・土鍋に多めの水を入れ、さし水をしながら弱火で時間をかけて煮詰める。
だった。味見をした人の話によると、「薄味のさらし餡のように、ほんのり甘い味がする・・・。」
高度経済成長期の真っただ中にいた僕にとって、この話は衝撃だった。角川「短歌」の「ふるさと」題詠に入選したものだが、選者のコメントは僕のところだけスルーされていた。初めての入選に僕は驚いたが、一番驚いたのは選者だったかも知れない。「懐かしいふるさと」という応募歌が多かったなかで、飢饉の話それも土粥を詠むなど。
入選作の初句は「天保の・・・」だったが、歌集「夜の林檎」収録時には「吹き荒れし・・・」に改作した。歴史の学習事典ではないのだから、年号や飢饉の名前(歴史用語)はふさわしくないと思った。
歌集出版後に一通の手紙を頂いた。長年のシベリア抑留を体験された方からだった。生死の縁を体験された人ならではの感想・批評だった。それゆえ、この一首は僕にとっての忘れ得ぬ作品のひとつになった。