・夕暮れに汝(なれ)の家より帰りゆく散りし桜の敷積む道を
北原白秋の「君帰す朝の敷道さくさくと雪よ林檎の香のごとく降れ」を意識した一首。相聞だが、アララギならこう詠むぞと、勢いて詠んだ一首。
・逃れ得ぬジレンマ重く抱えつつ爪切ることも忘るる日々よ
心理詠である。だがこの一首は相聞と連動している。ジレンマがあるから恋をするのだ。そしてこれは相手と会う前日に詠んだ作品。
・湧きあがる雲には秋があると言う汝(なれ)の瞳は青く輝く
相聞歌だ。これ以上の説明は無用だろう。相手が誰かは問題ではない。捨象の対象だ。
【「短歌研究」2021年度版「短歌年鑑」より】