2013年 5首抄出
・シリウスを天狼星とよくぞ言うかくも冷たくかくも明るし・「星座」
・サラダ菜のみずみずしきを食べながらアンソロジーの頁を送る・「運河」
・遠き世のカリフのごとき顔をして説く人ありき静かな部屋に・「運河」
・復讐の女神ネメシスに似る女そ知らぬ顔にとうとうと話す・「星座α」
・遥かなるバベルの塔のごときビル国籍不明の人らが歩く・「星座」
一首目。シリウスは「おおいぬ座」の一等星。全天の中で最も明るく見える。この清涼感が好きで、僕は度々短歌のモチーフとする。
二首目。僕の部屋にはアンソロジーが、五冊ある。高野公彦、岡井隆、永田和宏、小高賢、篠弘。様々な選者だが、それぞれ独自の視点があって面白い。
三首目。人を皮肉った、意地悪い歌だ。だが何故か捨てられない。「私のことですか」と聞いた人がいたが、その人ではない。いわば「知ったかぶり」をする人すべてに普遍化したつもりだ。
四首目。「ネメシス」とはギリシャ神話に出て来る女神。人間の悪を懲らしめる紙、本によっては、復讐の女神とある。ここでは後者をとった。これも特定な人物ではなく、普遍化された人間である。
五首目。「バベル」は「バビロン」と同じ。聖書には、月に届く塔を人間が作ろうとして、紙の罰として、言葉が通じなくさせられた、とある。それまで人間は同一の言葉を使っていたが、この時より言語が分化した。何やら教訓めいていて僕はこの話を好む。近年、異国籍の人を街頭で見かけるのが多くなった。それを詠んだ。
こうしてみると、カタカナ語が目立つ。近年のぼくの嗜好らしい。「和文脈で詠え」という大家に怒られそうだ。だが正岡子規は言った。「日本人が作ったからは、例えサンスクリット語であっても、日本人の詩で、これあり候」(歌よみに与ふる書)
