岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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日本国憲法はアメリカの押しつけではない!

2015年06月09日 23時59分59秒 | 政治経済論・メモ
15年戦争(アジア太平洋戦争)は、1945年のポツダム宣言の受諾によって終了した。つまり、ポツダム宣言が、戦後日本の出発点となったのである。

 先ずは、その宣言の内容を纏めてみよう。宣言の骨子は、以下の7つである。

(1)軍国主義の駆逐 (2)領土の占領 (3)主権の制限 (4)武装解除と復員

(5)民主主義の確立 (6)戦犯の処罰 (7)日本軍の無条件降伏


 遠山茂樹:監修「日本史資料」解説

 「ポツダム宣言は、日独伊ファシオスト枢軸に対する全世界の平和友好諸国民の統一戦線の目標を示したものであり、それは降伏後の日本の履行条件であるとともに、連合国のみずから遵守すべき条件でもあった。」

 明治維新以来、寄生地主と独占資本とに支えられた「絶対主義的天皇制」のもとで統治されていた日本にとって、とりわけ「民主主義の確立」と「軍国主義の一掃」は至難の技だった。比較的民主主義的な「大正デモクラシー」の時代にも、「国民主権(主権在民)」は唱えられなかった。大日本帝国憲法の「天皇ハ神聖ニシテ侵スべカラヅ」に抵触したからである。

 この時代の、論客、吉野作造も、「デモクラシー」を「民主主義」とは翻訳できずに、「民本主義」と訳さざるを得なかった。

 そもそも民主主義が、いかなるものか、日本人にはよく分かっていなかったのである。そのことは、様々に発表された、「新憲法草案」「試案」「政党の綱領」にあらわれていた。

・幣原内閣の国務大臣の近衛文麿(=マッカーサーからの示唆を受けて)
  
 (1)議会に責任を持つ内閣制 (2)貴族院の民主化 (3)枢密院の廃止 

 (4)国民の基本的権利の保障

・幣原内閣の国務大臣の松本丞治(=内閣の憲法調査会)

 (1)貴族院を参議院に改編 (2)枢密院の廃止 (3)国務大臣の議会に対する責任制

・自由党(鳩山一郎:党首)の憲法の骨子
 
 (!)統治権の主体は日本国家なり。

・尾崎行雄、岩波茂雄の案

 (1)日本国の主権は天皇を首長とする国民全体に淵源す。

・大日本弁護士連合会の「憲法草案」

 (1)天皇大権を制限するが、主権に明記はなし。

・進歩党
 
 (1)天皇は臣民の輔翼荷に依り憲法の条規に従ひ統治権を行う。

・日本社会党

 (1)主権は国家(天皇を含む共同体)にあり。

・布施辰治、「憲法改正私案」

 (1)日本民主化のポツダム宣言履行と、終戦御大勅の国体維持に調整。

 (2)日本国は、日本国民の享有すり統治権により之を統治す。

・美濃部達吉

 (1)改憲は不要だ

・鈴木安蔵

 (1)日本国家の政治性格、政治体制が一変。(2)憲法の一部改正。

 この様に、「主権在民(国民主権)」ひとつとっても、はっきりとしなかった。


 「主権在民(国民主権)」を明記したのは、次の二つ。

・高野岩三郎(「改正憲法私案要綱」

 (1)共和制 (2)土地国有化

・日本共産党

 (1)主権在民 (2)18歳以上の普通選挙権 (3)責任内閣制 (4)人民の政府

 (5)議会に対する人民の監視、批判権 (6)人民の権利保障


 戦前、「天皇機関説」で、大学を負われた、美濃部達吉でさえ「改憲不要」を唱えているのには、驚かされる。

 一番、「主権在民」「基本的人権の保障」を明確にしたのは、日本共産党だが、議会では5議席で、弱小勢力だった。

 その他民間から、国民主権を含んだ憲法草案が発表された。民間の草案の方が政党の発表したものより優れたものが多かった。

 GHQ より「マッカーサー私案」が、政府に示されたのは、このような状況下だった。「日本国憲法はアメリカからの押しつけ」とよく呼ばれるが、当時の日本政府が自力で、「国民主権」「基本的人権の保障」を取り入れた憲法を作るのは、不可能に近かったようである。

 これにより「日本国憲法がアメリカの押しつけだ」という非難は当たらないだろう。憲法改正を強く促しているのがアメリカである。

 つまり、この国の人たちにとって「マッカサー試案」は渡りに舟だったのだ。しかも憲法9条は幣原喜重郎の発案であったことが実証されている。憲法制定議会での重要な論争もあった。それを経て、国会における代表者が日本国憲法の内容を決定した。

 「日本国憲法はアメリカの押し付け」という論はすでに破綻している。日本国憲法は日本国民の意思で制定された。改めて確認しておく。

(以上、参考文献:神田文人著「占領と民主主義」、遠山茂樹監修「日本史資料」)

 道州制については、地方自治の観点で既に記事にした。




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