「星座α」第6回歌会 於)鎌倉浄妙寺「無庵」
1・歌会の方式:
浄妙寺の「無庵」とは、石窯ガーデンテラスの向いのある建物で、昔僧が庵としたところのようだ。(良寛の庵は「五合庵」)ここで4人の選者団と司会者、尾崎主筆が席に就き、参加者に向かう形で会場が設定されていた。
一首につき2名が批評したのち選者2名が批評。これを3首繰り返したあと尾崎主筆がコメントするという形で進められた。選者の作品も俎上に乗せられ、容赦なく批評されるのが毎会の特色だ。斎藤茂吉と佐藤佐太郎の歌論の現代的実践のための鍛練の場である。
2・短歌の題材:
「夕空に向かって遠ざかる海鳥」 「足早に歩く友に歩調をあわせるとき背筋の伸びる自分」
「登山仲間の健脚の秘密を知りたい自分」 「天体の知識も知らず物語を作った『いにしえびと』」
「咲くキスゲの色に母のエプロンを思う」 「伸びゆく航跡雲に思う『少女期の夢』」
「芝生の上に飛び出した小鳥に驚く」 「産卵を終えた『鮭の母』の最期」
「帰り路で月に捧げる祈り」 「無心に下る山道に見つけた揺れる一木」
「逆縁の悲しみ」 「西に向かう帰路に見た暮れゆく空」
「長引く会議の席に見る自分の手の感情線」 「通勤のドアより吐き出される人の群」
「着ぐるみのウサギがいる雨の渋谷の街」 「電車に乗り込んできた女の無言の意思表示」
「『モナ・リザ』を見て思い出した己の過去」 「青磁に触れたときのこころの揺らぎ」
「鳥の影が背後より差す時の風切る音」 「冬に新芽を出した槻の木」 「忽ちに過ぎる時間」。
3・論点:
「焦点を絞る・感動の中心は『キュッと』、背景は『サラッと』」 「時間を表現するときに『~の時』とすると一首が分割され、背景が強くなってしまう」
「文法的に、また言葉遣いがスラッとしないと読者に通じない」 「通じないと『読者に分からせる作品』になってしまう」
「直接言わないで読者に感じられる作品をめざそう」 「口語と文語では語感が異なるので注意」
「『限定』が弱いと表現が曖昧になり、印象も希薄になる」
「難解な文語を知っているのは上手さの表れだが、文語を使っても『短歌は現代詩』であることを忘れずに」
「ここはこれでなければならないという言葉を使おう」 「サラッと言ったほうがいい場合もある」
「意味がつきすぎ(言葉がつまった感じ)になるときは二首できると考えよ」 「読者に間違いなく伝わるように心がけるのが必要」
「体験したときの印象が強すぎると『追いついてこない歌』(読者が追いついて来れない歌になってしまう」
「読み手にとって必要のないことを入れると説明になる」 「結句が付け足しになってしまうことがあるので注意」など。
4・歌会の雰囲気:
一首の独立性を常に考えること。事件的背景が分からなければならない作品はペケ。お楽しみでなく、やるからには自分の言葉での表現、自分なりの切り取りをめざす。この真剣勝負の主筆の姿勢が心に残った。
参加者はそれぞれ、歌歴を積んできた人が多く、その真剣勝負の一語一語を全員がうけとめられているようだった。
また休憩時間に僕の誌上の作品批評の文体が話題になり、それに答えて「カテゴリー『作家・小論』」の「体験的・岡井隆私論」の内容を話した。(詳しくはそちらを参照)
5・これからのこと:
斎藤茂吉展が開かれる予定があること、佐藤佐太郎が「塔」などでも注目されはじめたことなども話題となった。内容はそれにふさわしく、重く充実したものだった。特に尾崎主筆の気迫に圧倒されそうだった。
意を新たにするいいきっかけになるだろう。