岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

「星座α」12号:作品批評

2016年06月30日 11時35分52秒 | 作品批評:茂吉と佐太郎の歌論に学んで
「星座α」第12号:作品批評


 詩情豊かに

 抒情詩には様々な表現方法がある。事実を事実として表現するリアリズム、仮想空間の中のシュールリアリズム、言葉の放つ印象によって美的世界を描く象徴詩など。佐藤佐太郎の短歌は「象徴的技法を駆使した写実歌」(篠弘)と言われる。

 語感、声調に配慮し、生きとし生けるものの生命力を捉えるものとまずは規定しておく。


 (偶然にであった教会葬の讃美歌を聞く歌)

 清涼感と鋭さのある作品である。人間の生命への敬虔な祈りにも似た情感が伝わってくる。


 (砂の上の冬の蝶が翅を動かす歌)

 冬の蝶。春から夏へかけて懸命に生き、多くは冬を前に姿を消す蝶。生き残っていたのだろう。翅をかすかに動かすとき生のあわれがしみじみと浮かびくる。


 (都市の一角を過ぎて路地の匂いに惹かれる歌)

 鉄筋コンクリートの団地を過ぎた辺りだろうか。草の生えぬところを過ぎて、土の匂いに惹かれたのであろう。或いは生活臭であったかも知れない。鋭敏な嗅覚で世界を捉えた作品だ。


 (海岸沿いに佇んで時差をほぐしてゆく歌)

 海外に住む作者。結句に独自性があり、作者の生き様(いきよう)も感じられる。言葉の繋がりにも無理がない。


 (朝カギをかける指が、思いがけず悴む歌)

 一瞬の体感を捉えた作品。作者の驚きも伝わってくる。四句目は、ややリズムがぎくしゃくしているので工夫の余地があろう。


 (生きるのを罪と思う日の歌)

 (心の中に言葉を一つ抱いて歩む歌)

 この二首は紙数の関係で批評が書けなかったので、ここに書く。

 前者。作者自らの生き方を自己洞察した作品だ。重いテーマだ。しかしサラリと詠まれているところが良い。結句の情景が効果的に働いている。

 後者。どういう言葉を心に秘めていたのかはわからない。だが道を歩きながら、作者が自分を見つめている姿が立ち上がってくる。一抹の孤独感も感じられる。


(終わり)




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