・空を背に蝋梅咲けり目に見えぬ標(しめ)あるとき花の空間
「春雪ふたたび」所収。
標(しめ)とは、「目的・目印」の意。蠟梅が咲くのは春先。春の訪れである。作者はどこかの梅林にいるのだろうか。
そこで蠟梅が咲くのを見た。それが「春の訪れ」を目に見えない形で表している、と作者は感じ取った。「花の空間」。美しい響きだ。
情景が目に鮮明に浮かぶ。そして緊張感。ここに作者の独自性がある。
おそらく、梅林だが、具体的な場所と時間は「捨象」されている。佐藤佐太郎の表現の限定」。また、春の訪れを喜ぶ心情を「象徴」しているようだ。
「捨象」と「象徴性」。これは佐藤佐太郎・斎藤茂吉にもある。
「緊張感」が作者の独自性だ。