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書評:「昭和詩史」大岡信著 思潮社刊

2014年11月23日 23時59分59秒 | 書評(文学)
『昭和詩史』大岡信著 思潮社刊 「詩の森文庫」

 本書の表題は『昭和詩史』である。しかし、実際は昭和初期から、戦争までの詩史である。昭和のはじめから叙述が始まり、戦後の「荒地」の刊行を予感させるところで終わっている。その叙述の方法がユニークだ。

 「同人誌」をキーワードとしている。ダダイストの高橋新吉、それを更に社会意識的に増幅するような形で、起こった坪井繁治、萩原恭次郎、小野十三郎らの出した「赤と黒」を前史として、プロレタリア詩の「プロレタリア詩」、モダニズムの「詩と試論」、そこから分かれた「詩・現実」、古典、日本的回帰の「コギト」、抒情派の「四季」、生活感情にじかに根ざした「歴程」、それらに入らない詩人たちが、目指したものが叙述される。

 詩を巡る文芸思潮と社会的背景が述べられたあと叙述は戦争中の詩壇の傾向へと進む。そこでは、戦争に自己の抒情の深化を見出した高村光太郎と、それに抵抗を示した金子光晴が描かれる。

 通して読むと、この時代の詩人たちが、表現の革新と深化を目指して、旗幟鮮明な同人誌を、刊行していたのがわかる。

 主要な詩人が、時代を代表する同人誌に集まり、新人の発掘や、新人の教育機関としての役割を同人誌が担っていたのがわかる。

 前に紹介した、鮎川信夫著『近代詩から現代詩へ』は、詩人個人を中心とした叙述だが、それらの詩人が、目指したもの、文芸思潮の概略、相互関係、時代背景が俯瞰できる。


 個別の詩人の詩論を読む前の、準備に恰好な一冊であろう。


 印象的な一文を引用しよう。

「(西脇順三郎の)言語表現論は、浅墓に理解すれば、底の浅い形式主義美学に、ひとつの理論的支柱を与えるものとなりえた・・・。西脇には人間の生きている世界を永遠とか神とか無とかの対比において考える習性がある。存在をその寂寥感からとらえる目がある。それは彼の作品にリアリティを与える秘密の鍵だと言ってもいい。」

「ことばの意味の思いがけない結合の面白さだけをねらって書くとしたら、そこに生まれるのは、ことばの単なるモザイクにすぎないだろう。」

 主題、思想性が、あってこそ文学と呼ぶに足る詩の創作が可能となるのだろう。(この場合の「思想性」とは、政治思想ではない。美学、目的意識、詩論の総体を示すものだ。)




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