『近代詩から現代詩へ』鮎川信夫著 思潮社刊 (詩の森文庫)
著者の鮎川信夫は、現代詩の起点と呼ばれる「荒地」という雑誌の主要同人だった。この雑誌の同人には、田村隆一、黒田三郎がいる。
本書は4部構成となっている。「明治の詩人」「大正・昭和の詩人1」「大正・昭和の詩人2」「大正・昭和の詩人3」。
ここに島崎藤村、北原白秋、高村光太郎、萩原朔太郎、金子光晴、小野十三郎、中原中也、三好達治、西脇順三郎など、総勢48人の詩人の作品と、鑑賞が収録されている。
詩の評論にありがちな難解な言葉や、文芸用語を使わずに、詩人の作品鑑賞、作風の紹介、近現代詩に占める位置などが、叙述されている。(複雑なことを難しい言葉で表現するのは楽だが、平易な言葉で表現するのは意外と難しい。平易な言葉で書かれているというのは、鮎川が詩への造詣が深いということだろう。)
「現代短歌新聞」の紙上で、「歌人は詩をよまないし、詩人は短歌をよまない。」と脱力感を明かしたのは、岡井隆。岡井は「短歌」誌上に「詩の点滅」を連載しているが、これは作品への「理屈付け」という印象が強い。現代詩を読んで居ないものには,やや難解な気がする。
それに対し、本書は、現代詩を読んでみようと、読書欲を刺激される。北川冬彦で終わっているから、やや古い印象は、免れないが、短歌を詠むに際し、短歌史を学ぶ様に、明治以降の詩を読むのに、恰好な手引書となる。
本書で気に入った詩人を見つけ、詩集を買い求めてもいいし、思潮社の「現代詩文庫」で詩集を、買い求めるのもいいだろう。
僕は「詩人の聲」の懇談会で、名前を知った詩人の詩集を「現代詩文庫」で買い求め、田村隆一が気に入った。「現代詩文庫」で、収録作品を読んだあと、『田村隆一全集』を買った。
「近頃の歌詠みは、西洋に詩というものがあるのも、一向に知り申さず候」と「歌詠みに与ふる書」で書いたのは、正岡子規だが、いま再びそういうことが求められる時代となった思いがする。
短歌は現代の定形詩であると僕は思う。最近「星座」「星座α」の作品批評や、各地の歌会で、短歌が抒情詩となり得ているかを、書いたり、発言したりする機会が、めっきり増えた。
短歌が現代詩から、学ぶことは多いはずだ。その手始めに本書を読むのが適当だと思う。