『30周年記念 運河作品集』
「歴史」(1)
・地下街に漂う時に身を置きてモカ珈琲を静かに飲みぬ
・シリウスを天狼星とよくぞ言うかくも冷たくかくも明るし
・冷淡な悪役の顔思わしめ女峰千鳥の花開きたり
・復讐の女神ネメシスに似る女そ知らぬ顔にとうとうと話す
・豊穣の神ディオニソスの居るごとく麦の畑に穂波が揺れる
・次々と人が改札過ぎる朝かぞえて居たり帽子の数を
・音高き風鳴りやまぬ薄明に寝返りを打つまたひとつ打つ
・わが聞けるラジオの雑音騒がしくバンアレン帯に異常あるべし
・展示室にいにしえ人の匂いして白磁の壺の輝きまぶし
・行き暮れて宿を求める人のごと微かに咲けり一人静は
(以下続く)
「運河」の30周年ということで、第三歌集『剣の滴』以降の作品のうちで、最も気に入った作品を出詠した。
言葉遣いが「運河」の中で、僕だけ傾向が違う。新刊の『斎藤茂吉と佐藤佐太郎』(角川学芸出版)に描いたが、佐太郎の「純粋短歌論」に学ぶものが、100人いれば、100通りの新風が現れるはずだ。
感情表現が直接的で、切実であれば、抒情詩としての質は悪くないだろう。佐太郎に学んでも、佐太郎の亜流では、意味がない。
斎藤茂吉も言っている。「おのれの内的流転にあった言葉を用いよ。」
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