五感を活かして 「星座α」第7号より
佐藤佐太郎も斎藤茂吉も「自分の体内をくぐった言葉で詠う」という意味のことを、異口同音に述べていますが、これは「五感を活かして対象の核心を捉える」ということです。
今号ではそこに着目してみました。
先ず視覚。
(庭木々の梢をわたる月の歌)
(庭を飛び来る揚羽蝶の歌)
(晴れわたる窓のそとの歌)
(川の鯉の歌)
次に聴覚。
(カラビナのふれあう音を聞く歌)
その次に味覚。
(春の山椒を食べる歌)
それから触覚。
(棺の中の姉の頬に触れる歌)
最後に嗅覚。
(ズボンに終電の匂いを感じる歌)
以上の9首は、五感を活かし外界を捉え、表現力も確かなため、主題が鮮明に、しかもある時は切実に浮かび上がります。
そしてその五感を活かすことの延長線上に心理の掘り下げ、幻想、社会詠などが成立します。
(落ち椿に別れを感じる歌)
上の句の情景が、下の句の心情を表わす象徴となっています。
(薄日の中で蓮の葉の上を転がる露の歌)
幻想的な景を確かに捉えると、幻想的な作品になります。
(過疎化の進む合歓の咲く里の歌)
過疎化は社会詠の題材ですが、「合歓の咲く」「葉は寄り沿ひて」という実景の描写がスローガン的短歌、事実報告的短歌となるのを回避しています。