岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

岩田亨著 歌集「夜の林檎」「オリオンの剣」「剣の滴」 解題

2013年07月05日 23時59分59秒 | 書評(文学)
僕の出した歌集は、三冊。「夜の林檎」「オリオンの剣」「剣の滴」。それぞれ、歌集出版の切っ掛けが違う。

 1、「夜の林檎」(角川書店)1995年刊

 この年の四月に、胃癌の宣告を受けた。幸い初期の癌だったので、胃の全摘手術を受けて事なきを得た。だが宣告の直後には、「最期」が来るかも知れないと覚悟した。短歌を初めて五年だったから、とても歌集に出来るほどの作品は多くなかった。だが、万一のことを考えて出すことにした。医師からの宣告を受けたその夜に「星座の会」の尾崎主筆に手紙を書き、教えを乞うた。出版社の紹介、跋文の依頼、費用のこと。そこで「角川書店」の編集者を紹介してもらった。収録歌数358首。それにエッセイ2編を加えた。「孤独な観察眼」と言われたが、今から考えると、未熟な作品が多い。(現在品切れ)

・三四郎が顔出しそうな洋食屋針の止まりし時計もありて

・一人居の部屋に帰りてあてどなく夜の林檎を音立てて喰む

・風重き心地す夜の公園に石のオブジェは鈍く光りて

 角川「短歌」と「純林」(結社誌)で紹介された。


 2、「オリオンの剣」(角川書店)2011年刊

 この前年に、尾崎左永子氏が「椿くれなゐ」という歌集を出した。その後記に「戦いは終わった」という一節があった。自分の手で編む歌集は最後ともあった。尾崎氏の代表作に「わが未来まだ闘ひの匂ひして標的とならん誰と誰と誰」というものがある。その尾崎氏が「戦いは終わった」と言うのは、僕にとっては衝撃だった。病気療養でかなりへばっていたのだが、一偏で吹き飛んだ。一晩で選歌し配列を決めた。自分でも驚くほどの力が出た。収録歌223首。「短歌新聞文庫」にしたいと、石黒清介氏から葉書を頂いたが、「短歌新聞社」自体が無くなってしまった。角川「短歌」、「短歌現代」で紹介された。「運河」誌上では、「かりん」「短歌人」「心の花」「水甕」などの歌人から批評文を頂いた。また、「神奈川歌人会」の優秀歌集の最終選考に残ったと聞いた。    (Amazonで購入出来ます。)

・オリオンは剣を持つや寒々と冬の夜空の漆黒深く

・おだやかに星を見上げることもなくただ一心にキーボード叩く

・埋み火のごとき心よ日曜に日すがら読めり北欧神話

 3、「剣の滴」(かまくら春秋社)2012年刊

 「オリオンの剣」は、当初「星座ライブラリー」の一つとして企画された。諸般の事情で「角川書店」からの出版となった。そこで、「オリオンの剣」の続編、拾遺として出版した。収録歌数294首。角川「短歌」、「星座α」、「新樹」で紹介された。「オリオンの剣」と同じく、「神奈川歌人会」の優秀歌集の最終選考に残って、現代歌人協会賞に推薦してくれる方もいらっしゃった。三冊のうち、完成度が一番高いと思う。
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・濁りなき鮮紅色にありしとぞジャンヌダルクの剣の滴は

・昼過ぎの地に列をなす蟻を見て不意の思えりローマの奴隷

・冬の陽がグラスの中に屈折し描く楕円はわが新世界




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