僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

春の思ひ出/中原中也

2010-05-27 23:09:57 | 
 春の思ひ出
                         中原 中也

      摘み溜めしれんげの華を
        夕餉に帰る時刻となれば
      立ち迷ふ春の暮藹(ぼあい)の
        土の上(へ)に叩きつけ

      いまひとたびは未練で眺め
        さりげなく手を拍きつつ
      路の上(へ)を走りくれば
        (暮れのこる空よ!)

      わが家へと入りてみれば
        なごやかにうちまじりつつ
      秋の日の夕陽の丘か炊煙か
        われを暈(くる)めかすもののあり

      古き代の富みし館(やかた)の
        カドリール ゆらゆるスカーツ
        カドリール ゆらゆるスカーツ
      何時の日か絶えんとはする カドリール!
    (「山羊の歌」、昭9)