友だち手がかり読みとりシステム(会話編)
「お母さん、今日もたっちゃんが教室を出て行ってしまいましたよ。
どうすればいいんでしょうか」
「そうですかぁ。
ストレス反応システムが作動したんですかね~」
「はあ?」
「この子にとって、何か危険を知らせる信号が聞こえたのかしら…」
「はあ→」
「それで、教室の外の安全パトロールに出かけたんじゃないかしら?」
「はあ…」
「私にも分からないんですけどね。
でも、授業中に教室から抜け出しなさいって、
私が教えてるわけじゃないんですよ」
「それは分かってますが…。
でも、外に出ちゃうときは、教室にいなさいって、
ちゃんと教えた方がいいんですかね」
「ええ、そうですね。
でも、この子は分かっているんだと思います。
それでも何か、気になることに、
ストレス反応システムが働いているんじゃないですか?」
「そのストレス反応…って何ですか?」
「先生は、車の運転中、何でもないのに急ブレーキ踏みますか?」
「そんなことしませんよ。
そんなことしたら危ないじゃないですか」
「じゃあ、子どもが飛び出したら?」
「すぐに!」
「それも、ストレス反応システム、でしょ」
「はあ?」
「ふつうならしないことを、危険を避けるために、
とっさに脳と身体が反応してるってことでしょ」
「はあ→」
「それって、脳がおしゃべりをやめさせ、
血液を急いで集めて、筋肉に動けって命令して、
動かしているんでしょ」
「はあ…」
「この子の目の前にも、何か飛び出したりするんでしょうかね~~」
「はあ→」
「いいんですよ。ふつうに声をかけてくだされば。
『いまは授業中だぞ~』って、
後ろ姿に声をかけてくれれば、それでいいと思うんですけど」
「でも、それもストレスなんでしょ」
「いいんですよ。ストレスにもいろいろあるってこと、
この子は知らなきゃいけないんですから」
「はあ、そんなもんですかね」
◇ ◇ ◇
「そのうち、この子の《社会的手がかり読みとりシステム》が
できあがれば、少しは落ち着くかしら」
「何ですか? 今度のシステムは?」
「《社会的手がかり読みとりシステム》ですよ」
「はあ…、それも、聞いたことないシステムですね~」
「私も初めて聞いたけど、中身はありきたりなことでしたよ」
「はあ→」
「たとえば、先生が町を歩いてるとき、
銃を持った人が走ってきて目の前で
撃ち合いが始まったらどうします?」
「そりゃー、びっくりでしょうね。警察を呼ばなきゃ」
「でも、周りの人がみんな目をキラキラさせて、
撃ち合いが終わったとたん拍手が起こったら?」
「は?」
「ほら、映画のロケとか」
「ああ~~~、はいはい。
でも、それなら、きっと最初から驚かないでしょ。」
「どうして?」
「だって、周りの人たちの様子や雰囲気をみればわかるでしょ。
カメラとか、見学している雰囲気とか、
やっぱり、そういう空気とかってあるでしょ。」
「それが、生まれて初めてでも?」
「それは…」
「でしょ。それを経験していくことが、
《社会的手がかり読みとりシステム》ってことみたいですよ。
「はあ」
「周りの人の様子を見て、いま、ここ、の状況が安全なのか、
危険なのか、緊張しなければいけないのか、
安心していていいのか、
自分じゃ判断がつかなくても、周りの人の顔の表情や動きを見て
判断するってこと、私たちが自然にやってることですよね。」
「そうですね」
「でも、それは、この子にとっては、
そんなに簡単なことじゃないんですよ。
それが分かるためには、いろんなこと、いっぱい自分の目で見て、
聞いて、感じて、確かめていかないと、
実感できないことなんですよ。きっと。
ふつうの子なら簡単に分かることでも、
この子は何回も何十回も経験して、
自分の納得の仕方でたしかめていると思うんです。
だから、みんなと一緒にいて、みんなと一緒に生活して、
みんなと一緒に笑ったり、驚いたり、泣いたり、怒られたり、
褒められたりしながら、その中で、この子にとっての
《周りの友だちを手がかりにして、この世は安全なところだって
ことを読みとるシステム》ができたらいいなって思うんです。」
「はぁ」
「そうすれば、勉強ができなくても、言葉がうまくしゃべれなくても、
この子はこの子の《友だち手がかり読みとりシステム》を使って、
自分が安心できる人、信頼できる人をみつけて、
頼ることができるでしょ。
そしたら、私がいつかいなくなっても、
この子は、きっと生きていける。
この子を助けてくれる人にきっとあえると思うの。」
「はぁ、そんなもんですかね~」
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