《「ぎゅっとしたらいいのに」の物語》①
《遠くにいる子ども》
会えない子どもに、母親が絵本を読む声を届ける取り組みがある。
会えないのは、子どもと遠く離れているから。
小さなグループで絵本を読みあい、録音したCDを送る。
会えないのは、母親が刑務所にいるから。
たとえば『きんのたまごにいちゃん』という絵本を読む人がいる。
2~3歳向けの、アニメっぽい絵本。
金の卵が割れないように大事に育てられるたまごにいちゃん。
でも身体が成長し、卵のままではいられなくなる。
とうとうたまごにいちゃんが訴える。
《「こんなぼくじゃだめ? きんのたまごじゃないとかなしい?」となきながらいいました。
たまごにいちゃんの言葉を聞いて、おとうさんとおかあさんもなきながら、おにいちゃんをぎゅっとだしきしめました。「ごめんね、ごめんね…」。》
私が本屋で手に取っていたら、「ふーん」とつぶやいて棚に戻すだろう。
でもその母親は、「こんなんナシやろ」とつぶやいた。
「だってそやろ? 悪いことして謝らなあかんのに、抱き寄せるなんてズルいやろ。うちはホンマ、クスリをやってるの、子どもに悪いと思ってて、だから子どもが抱っこしてって寄ってきたときも、ゴメンって思いながら付きとばして障子をパシッと閉めてんで。こんなん、アリか? ゴメンなのに、ぎゅっとと抱きしめるなんて…ホンマ腹立つ」
その場にいた誰もが不意をつかれ黙りこむ。
そして、メンバーの一人が言う。
「あんたも、ぎゅっとしたらいいやん。絵本の中でならぎゅっとできるやん」
絵本の親子の《つながり方》が、それを読む親の《つながり方》を引き出す。
そして仲間の言葉が、もう一つの《つながり方》を教えてくれる。
(つづく)
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