《思いを乗せる舟》(その1)
この子は言葉では話してくれない。
でも私はこの子と話したい。
さて、どうしよか。
言葉で話してはくれないと分かっていて、それでも「この子と話したい」のは私。
話をしたいのだから、まず話そう。
私は「言葉が欲しい」のではないのだから。
ただ今の私は「言葉」しか持ち合わせがないから。
「この子と話したい」思いを、言葉にのせて届けてみよう。
向かい合うこの子の目をみて、この子がいることを感じながら、私のまなざしと言葉と声に、思いをのせてこの子に話しかけてみよう。
そうして気づく。
私も言葉だけで、話をしているのではなかった。
私の思いをのせる舟は、言葉だけじゃない。
むしろ、言葉にのせられない思いの方が多かった。
この子が言葉を持ち合わせていない?
では私は?
思いをのせられる言葉を、私はどれほど持ち合わせてきたか?
この子は、何に思いをのせて、私に届けてきたか。
私は、どこから受け取ってきたのだったか。
ああ。そういうことか。
【写真:仲村伊織】