【業務連絡メモ】⑤
《お母さんが泣かないところがいい・Ⅲ》
「あなたが笑顔でいられる場所が、お母さんの泣かない場所なんだよ」
私が5歳のときに伝えたことを、彼女はずっと守ってきた。
いつも会う度に、彼女の笑顔は、「さとうさんのいうとおりだね」と言っているようだった。
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「お母さんが泣かないところがいい」
再びその声を聴いたのは9年後。
彼女は中3になり高校進学を目指していたが、12月になって突然受検をやめると言い出した。
「え、そんなはずはない」と思った。中3になったときに彼女からもらった手紙にはこう書かれていた。「高校へ行きたいのでおてつだいして下さい!」。
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「私は高校生になりたい。お母さんもみんなも応援してくれる。だから私もがんばった。」
「だけど、どうしても点数が取れない。『こんなんじゃ高校行けないぞ』という男子の声が耳から離れない。」
「このままじゃ合格できない。きっとお母さんも悲しむ。いつも応援してくれる高村さんも下平さんもがっかりする。でもどんなにがんばっても点が取れない。」
「Mちゃん(支援級)は受検しなくても行ける所があるという。一緒に行こうよと誘ってくれる。」
「不合格になることを心配しなくていいなら、それがいいかもしれない。」
「私の答案用紙をみて、『これじゃやばいぞ』という男子の声が耳にひびく。」
『私が笑顔でいられる場所が、お母さんの泣かない場所』
「それなら、私が受検をあきらめても、笑顔でいられるなら、それでいい。」
きっと、彼女はそう考えたのだと思った。
(つづく)