ワニなつノート

本のノート2012 (その2)

『現代日本の気分』野田正彰 みすず書房

(P37)
『……過疎で豪雪地帯である松之山町は、自殺率がきわめて高かった。
特に老人が多数死んでいた。

1973年から84年までの12年間における65歳以上の自殺率は222.7だった。
1984年の松之山町の老人自殺率は382.1にのぼり、全国平均の47.8の8倍にもなる。

この事実に注目した後藤さんらは、町の保健婦とともに調査を始めた。

子どもたちが都市へ出て行った農山村で老人は生きる意欲を失い、孤独自殺していると思われていたが、分かったことは、実は独居老人には一例の自殺者もいず、むしろ二世代、三世代が一緒に暮らす家族に自殺者がいたことだった。

息子や娘夫婦、孫と暮らす老人が身体が不如意になると、「子どもたちに迷惑をかけないために」首をくくっていたのである。…

そこで、後藤さんたちは、アンケートで老人たちのうつ状態を調べ、訪問面接でチェックするとともに、この地域の老人の人生観を変える活動を進めた。

老人クラブを組織し、「働けなくなれば、死んだ方がいい」という人生観に対して、遊ぶことの喜び、楽しむことの価値を繰り返し教えたのだった。
食事会に誘い、歌って騒ぎ、バス旅行も企画した。
こうして彼らは、自殺者を急激に減らした。』



        ◇


《迷惑ってなんだろう?》

「人に迷惑をかけないように」と親から教えられてきました。
「人に迷惑をかけないように」と学校で教えられてきました。

その教えは、「一人で孤独で生きていけ」という教えではないはずだけど、やはり「人に迷惑をかけない」ことと「孤独や自殺」は確かにつながっています。

その教えは、「人の気持ちを考えるな」という教えではないはずだけど、自殺が愛する家族への取り返しのつかない「迷惑」だとは気付けないまま死んでいくことにつながっています。


去年、妹と同い年の従妹が自ら死を選びました。
夫の暴力に耐え続け、何度も実家の前まで戻りながら、玄関をくぐることができなかったようでした。十代の娘を遺して。

それを母親から聞いたのが、癌の手術のために入院する前日でした。
で、私も「迷惑をかけないように」、病気のことを口にしませんでした。

新潟県松之山町は、私の生まれた町の近くです。
私のなかにも、「人に迷惑をかけないように」はしっかりと染み付いています。


               ◇

《迷惑かけてありがとう》

「迷惑」という言葉を検索してみたら、『迷惑かけてありがとう』という言葉が出てきました。
1984年のNHKのドラマのタイトルでした。

私が24歳のころ…そういわれれば、そんな話題があったような…。

【プロボクサーからコメディアンに転身した、たこ八郎の半生をドラマ化したもの。たこ八郎をモデルとした「佐々木金助」は柄本明が演じた。
番組タイトルの「迷惑かけてありがとう」とは、たこの口癖で自らの“座右の銘”であった。】



「人に迷惑をかけるな」という「教え」に足りないのは、「迷惑」とは何かを問わないことだと思います。

「人の気持ち、人の思いを感じられるようになってほしい」という願いが伝わらないまま、ただ「人に迷惑をかける」ことが悪いことだと思い込まされてしまうことが多くの不幸につながります。

ある人が「迷惑」だと考えることが、他のある人にとっては少しも「迷惑じゃない」ことがいっぱいあります。
たとえそれが「迷惑」な行為だとしても、関係のなかでは、迷惑をかけられることがうれしいと感じる人がいます。
そのことを、ちゃんと子どもに伝えている大人はどれくらいいるんだろうか。

私は、どれだけそのことを子どもたちに伝えることができているんだろうか。
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