「ふつう学級」と「自立援助ホーム」をつなぐ糸(その2)
《「なにもしない」という贈り物について》
夏になると水の事故や交通事故で、子どもや若者が亡くなるニュースを毎日のように目にする。
先日、真夏日の自動車内に置き去りにされ亡くなった2才の子どものニュースを見た。
同じ日、私はまだ二十代の若者をみおくる斎場にいた。
母親は幼いころに亡くなり、父親には親権がない。
亡くなった若者を、私は知らない。
施設で育ち、社会に出てどうやって生きていたのかを、私は知らない。
親と家のない子は十代で一人で生きていけとされるこの社会で、彼らがどうやって生き延びているのか。私たちはほとんど知らない。
通夜も葬儀もなく火葬の場のみのお別れだった。
兄の人生はしあわせだったのかな…。
そうつぶやく子のとなりで、私はなにも言えなかった。
帰りの電車のなかで、その子はポツリポツリと話し始めた。
今日、行けてよかった
ちゃんとお別れできてよかった
ありがとう
死んだらほんとにそらにいくのかな
いつも元気で明るかった
笑った元気な顔しかみたことない
いつもきょうだいのこと気にかけてくれてた
小さいころ、施設におかしいっぱい持ってきてくれて、いっぱいあそんでくれた…
その言葉を聞きながら、私が生きているかぎり、この子を一人にはさせまいとおもう。
この夏、20代で亡くなった若者の人生を忘れないでいようとおもう。
◇
……子どもの自立援助の仕事をしています、と私は言う。
だけど、
自立って何ですか、という問いに、私はまだうまく答えられない。
援助って何ですか、という問いに、私はまだうまく答えられない。
特殊教育がいう「自立」をずっと疑ってきた。
特別支援教育の「支援」をずっと疑ってきた。
障害者福祉の世界に違和感を感じてきた。
そして、いま、児童福祉の世界にも違和感を感じている。
◇
「仕事」ではない、のだとおもう。
子どもにかかわることは「仕事」ではない、のだとおもう。
「自立援助」とは、「仕事」ではない、のだとおもう。
ふつう学級のいいところは、「ふつう学級」の先生の「仕事」がいい、のではない。
ふつう学級の日常生活には、「仕事」以外の関係があふれていて、「仕事」以外の世界こそが、子どもたちの人生を支えるから、だとおもう。
特別支援教育(特殊教育)には、専門家の「仕事」の占める比重が多すぎる。
子どもの生活世界が、「仕事」で覆われてしまう。
よい「仕事」よりも、「なにもしない」でいっしょにいることの中身を考えたいとおもう。
いま、私のとなりにいる子が、寄る辺なき道を歩まずにすむように。
できるだけ、私は「なにもしない」ことを、うまくやりたいとおもう。
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