《けいかほうこく・あらすじ》
私が癌と告げられた翌日に、その子の妊娠が分かった。
私は思った。この子と「入れ違い」か、あるいは生まれ変わり。
私が消えて、この子が生まれてきてくれるのかと。
でも、手術は成功し、8か月の抗がん剤治療が終わるころ、無事に赤ちゃんは生まれた。
同じ時代に生きられる喜びを知る。
半年後には、赤ちゃんと一緒に暮らすことにもなる。
ほんの数ヶ月だけれど、そもそも「赤ちゃん」は一年余りのこと。
その子が初めて歩いたのは私の家だった。
そのころは、母親の国籍さえ取れれば、赤ちゃんの日本国籍もとれるものだと単純に思っていた。だから赤ちゃんの国籍を回復するまでは死ねないと思った。それまでが「猶予期間」なのかとも思った。
「本当は、生まれ変わるはずだったけど、無国籍じゃだめじゃん。ちゃんと国籍を取ってよね」そう言われているように感じた。
ステージ3b=リンパ節転移ありというのは、よく分からなかった。手術は成功したが、6ヶ月で終わるはずの抗がん剤は2ヶ月延び、さらに「もう少しやっときましょかあ」といわれる。「えー、もういいんじゃねー」と答えたが、これで再発したら、先生のいう通りにしてればよかったと後悔するのかな。そんなことを考えていた。
とにかく赤ちゃんの国籍を取らなきゃ、再発してる場合じゃない。
「5年」という数字がいつも頭の隅にあった。
でも5年あれば小学校には間に合うだろう…。
…ところが5年が過ぎても片付かない。
「母の国籍」は5年目で取れた。
ところが、今度は父親が「胎児認知不受理撤回」の書類に応じないと言い出した。
離婚して5年。いや婚姻届けも不受理だったから離婚にもならない。
彼の戸籍には、結婚も子どもも「ないこと」になっている。
彼はきれいな戸籍のままにしておきたいらしい。
子どもの人権や親としての責任は考えられないらしい。
先月の家庭裁判所の調停の日にも現れなかった。
さて。
《けいかほうこく①》
先週、一年ぶりの検査に病院へ行った。どこも悪いところはなく再発もなし。
次はまた来年かと思ったら、「もう来なくていいですよ」。
「え、おわり? もう、気にしないで生きていいんだ。」
《けいかほうこく②》
そう思っているところへ、彼女から電話。
「裁判所から電話があってね、…向こうが調停に応じるみたい」
「え、おわり? もう、気にしないで生きていいんだ。」
もう裁判所に行かなくていい。
大使館にも、千葉の入国管理局にも、東京の入国管理局にも行かなくていいんだ。
もう国籍を気にしないで生きていけるんだね。
―――結局、私と赤ちゃんは「生まれ変わり」の関係ではなかった。
これからも同じ国で、同じ時代を、生きられるってこと。
「生まれ変わり」じゃなくて、「一緒に生きる」運命だったんだね。
という訳で、「癌の経過報告」と、「無国籍の経過報告」は、どっちもおしまい(=゚ω゚)ノ
めでたし。めでたし。
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yo
Taku Ono
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