病院に持っていく本を選ぶとき、いい機会だから自分の人生を振り返ってみたいと思いました。
自分がもっとも影響を受けた本。
まっさきに手に取ったのはアリスミラーでした。
『魂の殺人』
私の人生の真ん中にこの本はあります。
小さいころから、「悪い子」だと言われ続けてきました。
保育園でも小学校でも親からも近所からも…。
自分でもそうだなぁと自覚しながら成長しました。
でも、たった一人だけ、私をいい子だと言ってくれた人がいます。
冬の間、一家でお世話になった寮のおばさんでした。
おばさんだけが、いつも「ぼくはいい子だから」「いい子だから」と呪文のように言ってくれました。
「本当は悪い子だけど、かわいそうだから、いい子だって言ってくれてるんだ」
私はそう思っていました。
それでも、「いい子だから」というおばさんの声とことばは、私にとって安心と幸せそのものでした。
「もしかしたら、悪い子の自分の中にも、なにかいいものが残っているのかもしれない…」
そう思わせてくれ、自分をあきらめないでいられたことばだったのだと思います。
そんな私に、はっきりと「世界」を見せてくれたのが、アリスミラーでした。
子どもの私には見えなかった「折檻することは子どもの幸福のために不可欠」だという大人たちの嘘を、見事に暴いてくれたのでした。
アリスミラーの言葉は、私に、『ぼくは悪い子だったかもしれないけれど、「先生」や「大人」ほど悪人じゃなかった』と思わせてくれました。
たとえば、1796年の教育書に次のような記述があります。
『…私の言う通りにしなければ自分が困ることになるのだと肝に銘じさせたのです。
それから、一番よく言うことをきき、一番素直で、一番熱心な子にはほうびを…
…誰かが罰を受けるべきことをした時には、授業中その子の席を一番後ろに下げ、
その子には一言も口をきかず、何一つ読ませず、
そんな子は、全然いないようにして授業をするのです。
このやり方は子どもにはとてもこたえるらしく、この罰を受ける者は、たいがい涙をポロポロこぼします。」
(1796年・ザルツマン)
そんな子は、全然いないようにして授業をするのです。
そんな子は、全然いないようにして授業をするのです。
こうした手口について、アリスミラーは次のように言います。
『このような目に会った子どもの記憶に残るのは、…大人の親切なことと、「幼い罪人」のもっともな素直さだけです。こうして、子どもは捉われることなく感情を体験する能力を失っていくのです。』
21世紀になった今も、子どもに屈辱を与えて従順にさせる方法を、日本の学校は忠実に引き継いでいます。
小学校の先生が、「ひまわりさんに行かせるよ」という言葉を使うのは、日本中どこでも珍しいことではありません。
その先にあるのが、「特別支援教育」です。
特別支援教育は、普通学級で《そんな子は、全然いないようにして授業をする》ために、作られ、今もその制度を支えています。
そこには、「涙をポロポロこぼし」ている子どもがたくさんいます。
そこで、子どもは「捉われることなく感情を体験する能力」を奪われていくのです。
本来、特別支援教育の人たちこそが、私たち以上に、こうした「手口」をなくすことを考えるべきだと思うのです。
自分たちが大切にしている子どもとの関係、子どもの教育の場を、「脅しの道具」として使われることは、不本意で悔しいことだと思うのです。
でも、そのことに本気で怒っている人に、私は出会ったことがありません。
本気で怒っている人は、「子どもを分けてはいけない」という人たちのなかにいました。
私は、「涙をポロポロこぼしている子ども」たちに、「悪いのはきみたちじゃないんだよ」と伝えたいと思います。
「そうしようと思えば簡単にできるのに、子どもたちを誰も分けたりしないで、一緒に生活できる子どもの育ちの場を作らないままの大人たちが間違っているんだよ。」
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