ホームを始めて3ヶ月が過ぎました。
ここで自分が何をすればいいのか。
私がやりたい仕事がどういうことなのか、ようやく分かりかけてきました。
こんなふうに書くと、変に思われるかもしれません。
それくらい分かっていて始めたんじゃないかと言われれば、返す言葉もありません。
今までもずっと、子どもとつきあう仕事をしてきました。
子どもとつきあうときに、何を大切にするか、何をしてはいけないか、そういうことをずっと考え続けてきました。
実際、援助ホームで仕事をしていたこともあります。
一時保護所でも子どもたちとつきあってきました。
目の前の子どもに、自分が何をしてあげられるのか。自分に何ができるのか。いつも考えてきたつもりでした。
学校という制限の中、保護所という制限の中、
援助ホームという制限の中、適応教室という制限の中…、
情緒障害児学級という制限の中…。
どこにいても、「これっておかしいだろ?」「絶対に理不尽だろ!」と思うことがたくさんあります。
でも、その制限の中でしか、子どもと出会うことができませんでした。
学校でも施設でも、私のやり方を認めてくれる人は、ほとんどいませんでした。
その制限の中、子どもとの一瞬のつきあいの中でだけ、私は私のやりたいようにやってこれたのでした。
28歳のとき、小学校の普通学級の介助員をしました。
Aちゃんという子が、普通学級から追い出されかけていました。
担任と介助員が何かと理由をつけて、その子をクラスの外に連れ出すのです。教育委員会と話し合って、「学校側には内緒で」、私が介助員になることにしました。
そんな事情を2年生の子どもたちは知りません。
あるとき、マキちゃんが、「ねー、さとーさん」と話しかけてきました。
振り向くと、「ほら」といって、Tシャツの袖をあげて肩を出しました。そこには、くっきりと歯型がついていました。噛まれて赤いとか、青いという色ではなく、本当にマジックの黒のような傷跡でした。
「これは…痛かったでしょう」
でも、まきちゃんは「ううん」と首を振ります。
誰の歯型かは聞くまでもありませんでした。痛くないはずがありません。大声で泣いて当然の噛まれ方だったはずです。
「お母さん、びっくりしたでしょ」というと、また「ううん」と首を振ります。
私が不思議な顔をしていると、マキちゃんは「だって、言ってないもん」と言って笑顔を見せてくれました。
Aちゃんをかばって、誰にも言っていないのだと分かりました。こんな小さな子が、こんなに痛い傷を、お母さんにも話していないことに驚きました。
そして、先生にもお母さんにも内緒のその傷を私に見せてくれたのは、私がAちゃんの味方だと分かっていたからでした。
学校や担任という大人の世界よりも、私がAちゃんの味方だと、マキちゃんは分かってくれていました。
そのことは、大人に認められるより、ずっとうれしいことでした。
そんなふうに、「子ども」と出会えればいいと、私は思ってきました。
それが、既存の学校や施設の枠組みの中での、「わたしのやり方」でした。
自分でホームをはじめて3か月が過ぎるころ、ふと気づいたのは、ここには「既存の枠組み」などない、ということでした。
私は、誰に遠慮することもなく、何に気兼ねすることもなく、ただ「子どもたちが、安心できる居場所と生活」を守るだけでいいのだと、改めて気づきました。
いままで「子どもを守る」というとき、私の中に「学校」から守ること、「制度」から守ること、といった常識がありました。
でも先日、「子どもを守る」という言葉が浮かんだ時、すぐに自分に聞き返しました。
「子どもを守る」
「子どもを守る?」
「何から?」
答えは、すぐに「私から」と分かりました。
「私の常識から。私のお節介から」
「子どもたちが、安心できる居場所と生活を守る」と言えば、もっともらしく聞こえます。
でも、私は、子どもたちが「どんな不安、どんな苦労、どんな痛み」を抱えて生きてきたかを、知りません。
それが分からないのに、「安心できる居場所」を守ることなどできません。
分からないなら、「私の安心の常識」を押し付けないこと。
そのことをもう少し考えてみようと思います。
(つづく)
追記
こういうとき、いつも就学相談会で言っている言葉が、自分に返ってきます。
「私の安心の常識」を子どもに押し付けないこと。
まだ小さな、障害のある子どもをせいいっぱい育てている親に向かって、そんな冷たいことを言っているのだから、自分が忘れちゃいけないよなぁ(o|o)
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