「おっきいがっこう」への通学路(その2)
《通学路をみていた中学生たち》
伊織くんの「通学路」にはいくつもの物語があった。
それは孤独な「RONIN」ではなく、たくさんの人に支えられ、報道され、伝えられた「通学路」だった。それは3年という長さゆえに、思いがけない相手にも伝わる物語になった。
その子たちが中学生になったとき、伊織くんの通学路は始まった。
彼らが中学に通う3年間という時間と同じ時間、伊織くんは「おっきいがっこう」への通学路を歩き続けた。
その子たちが通っていたのは、特別支援学校の中等部だった。
彼らが見ていたのは、伊織くんの姿だけではない。通学路には伊織くんの両親の姿があり、妹たちの姿があり、同級生たちの姿が見えていただろう。
テレビも新聞も、一人の「例外的な願い」としてでなく、「誰でもの当たり前の願い」として伝え続けてくれた。
支援学校の生徒たちには、本来、中等部から高等部への「通学路」しか見えていなかっただろう。
親や先生たちも、それ以外の「通学路」が現れることなど夢にも思わなかっただろう。
でも沖縄には、伊織くんがいた。その子たちの中学生活と同じ3年間をかけて、「おっきいがっこう」へ行きたいと、まっすぐに歩き続ける伊織くんがいた。
未来につながる希望への道を歩く伊織くんがいた。
そして彼らも、その通学路を歩いてみたいと思ったのだ。
自分たち自身の希望への「通学路」を見つけたのだ。
それが「おっきいがっこう」だった。
彼らが選んだ「通学路」は「高等部」ではなく、「おっきいがっこう」だった。
彼らに普通高校への「通学路」を見せたのは、他の誰でもない、伊織くんだった。
この国に生まれ支援学校しか知らなかった中学生に、普通高校への「通学路」を希望として見せることのできる人がどこにいるだろう。
彼らは無事に「おっきいがっこう」という名の「普通高校」に合格したという。
伊織くんと彼らの「通学路」の先にあらわれた「おっきいがっこう」。
それは、私の知っている「高校」ではなかったのかもしれない。
そう思い始めている。
(つづく)
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