後期中等教育における「定員内不合格」という差別(その1)
千葉では、今年も「定員内不合格」が繰り返されています。
去年の6月以降、県教委交渉や高校の例会にも一度も参加できませんでした。
1985年、康司の受験以来、都教委に通い、1989年千葉に会が出来て以来、県教委に通ってきました。
合格発表の日には、子どもたちの笑顔と涙を、毎年そばで感じてきました。
今年はそれがかなわず、子どもの笑顔も涙も目にしていません。
それでも、「定員内不合格」の現状には、怒りというよりも殺意に近いものが胸にこみあげてきます。
それをきちんと証明することができない自分の無能さにも腹が立ちますが、公立高校の、しかも特に定時制高校の、「定員内不合格」は、差別であり、15才の子どもへの犯罪だとさえ思います。
いま、一番、言葉にして、明らかにしたいと思うのは、この定員内不合格という子どもへの犯罪行為についてです。
今年のことについて書くことができないので、とりあえず3年前にこのブログに載せた文章を再掲します。
◇
《定員内不合格とエレベーター設置》
公立高校の募集人数とは、『この高校で、県民の税金を使い、責任を持って、これだけの人数の子どもたちの教育を保障します』という県の「公約」です。
定員内不合格を出すことについて、県は校長にどう伝えているのか。
県教委の担当者は、言います。
「11月には、定員確保の通知を出している」
「定員を確保しないことは、県民の信頼を裏切ること」
それでも、今年も多くの高校で定員内不合格を出しました。
ManaちゃんとNaoさんも定員内不合格でした。
Naoさんは、中学3年生の受験一色の学校生活のなかで、2学期からは不登校になりました。
その理由は本人しかわかりません。
でも、お母さんの話を聞き、Naoさんを見てきて、私には、高校に行けるかどうかの不安その不安を感じさせるだけの中3という生活が一番大きな理由だっただろうと感じます。
だから、放課後は学校に行き、図書館で課題のプリントに取り組んできたのでした。
学校が嫌いなわけでも、学校に行きたくない訳でも、友だちに会いたくないのでもありませんでした。中3という生活の不安、たぶん自分一人の不安だけでなく、クラスみんなの不安、学年みんなの不安、さらには先生たちの不安、すべての親の不安、そうしたものを感じていたように思います。
同じころ、Manaちゃんが「高校には行かない」と言いだしたのも、同じものを感じていたからだろうと思います。学校は違っても、中3の生活の重圧は、どこも同じです。
だから、今回も定員内不合格にされたあと、県教委で二人のお母さんは同じことを口にしました。
この子に障害があり、勉強ができないことは分かっている。高校に行ってもやっていけるのか、誰よりも不安なのは親である自分。だから、人に相談したり、情報を集めたりしていても、「本当にこの子は高校生になりたいのだろうか?もしかしたら、親である自分が行かせたいだけなんじゃないだろうか?何度も何度も自分に問いかけてきた。何度も何度も受験はやめようかと思ってきた。でも、この子が、この子が、自分から行きたいのだと。何度も何度も、この子の気持ちを確かめながら、その時々に、本当に高校生になりたいんだというこの子の気持ちを感じたからこそ、ここまできたのです。
中学校の担任も、特色化選抜のときも、今回の学力選抜のときも、受験の介助に入ってくれて、本当によくがんばったと驚いている。中学校の担任の先生も、予想以上のがんばりをみせた。そして、定員は割れている。
点数で比べる必要もない。ただ、この子の中学校生活を知り、受験の日のがんばりを見てくれれば、空いている席に、この子を座らせない理由など、この世のどこを探してもない。
Manaちゃんのお母さんは言いました。
「この子はマイナスの人間じゃないと思うんです…この子はマイナスの子どもじゃないと思うんです…」
入試の介助をしてくれたNaoちゃんの中学の担任は言いました。
「二日間、あんなにがんばったのに」
Naoちゃんは2学期から不登校で、朝から学校にいくことをしていません。
しかも、1月にN高校の校長から、「この学校は椅子を蹴飛ばしてでもやらせる」などと脅され、その高校への受験をあきらめ、他の高校を受験し不合格。
その時には、前の夜からふとんの中で泣いていたそうです。発表の日の朝も、不安でふとんから出てこれず号泣していたそうです。お母さんだけで見にいった結果は不合格。それでも、すぐに次の受験のために前を向いてきたのです。
2月25日、受験の日に、お母さんが朝5時に起きると、Naoちゃんは先に起きて準備していたそうです。2学期から学校に行けず、不登校をしていた子どもが、訪問した高校で校長に脅され一度は受験はあきらめ、次の高校も不合格にされ、それでももう一回チャンスがあるからと、朝5時前に自分から起きて準備をする子が、どうして席が空いているのに、「不合格」なのか。
受験に行く途中、Naoさんは同級生に会い、「どこにいくの?」と聞かれました。
「じゅけん」と答えると、同級生たちは、「自分たちと《おなじ》受験?」というニュアンスで聞きなおしました。
「おなじじゅけん」と答えるNaoちゃんの顔は自信にあふれていたそうです。
なのに、どうして、「席が空いている」のに不合格なのか。
「不合格」なのは、NaoさんとManちゃんを「定員内不合格」にした校長です。
子どもの生きる姿をみることのできない校長が「不合格」なのです。
「点数」で子どもを切るだけなら、校長などいりません。
パソコンを校長室に座らせておけばいいのです。
□ □ □
2月26日。
NaoさんとManちゃんが堂々と精一杯受験している時。
県議会では、次のようなやりとりがありました。
千葉県議会・平成22年2月26日・本会議・代表質問にて
○県立学校の施設・設備整備について
質問(吉野秀夫議員)
さらに、県立高校へのエレベーター設置でございます。
現在平成21年5月現在で、県立高校に通う、しかも車いす利用の生徒は9名在籍していると聞いております。先ほど申し上げましたとおり、学校の居住性の質的向上という見地と、いわゆる我が県が障害者条例を有する県の教育委員会として、車いすの利用を余儀なくされる高校生への対応を含め、エレベーターの設置が、現在喫緊の課題の一つであると考えます。
そこでお伺いいたします。
県立高校のエレベーター設置によるバリアフリー化をどう進めていくのか、お答をいただきたい。
答弁(鬼澤教育長)
県立高校のエレベーター設置によるバリアフリー化をどう進めていくのかとの質問でございますが、県立高校のエレベーターは、これまで校舎の新築改築等に併せて2校に設置してきたところであり、さらに現在、4月に開校する印旛明誠高校に設置しています。
エレベーターにつきましては、障害のある生徒等も安心して学校生活を送ることができる環境作りを推進するため、既設の学校についてもできる限り整備することが望ましいと考えております。
このため、今回の2月補正予算案では、車いす利用の生徒のいる学校の中から2校の整備を進めることとしております。
今後とも、厳しい財政状況ではございますが、障害のある生徒の状況等を勘案しながら、可能な限りエレベーター設置によるバリアフリー化を進めてまいります。
□ □ □
NaoさんとManちゃんが、不合格になる理由は一つもないのです。
国は4月から高校を無償化しようとしています。それは、高校がほぼ義務教育といっていいほどに、子どもにとって必要不可欠なものだからです。
県議会でも、こうした話し合いを行なっている一方で、エレベーターのように新たな予算が必要なわけでもなく、すでに予算のついた設備・教員のもとで、席が空いているのに、意欲と希望をもって受験した子どもを不合格にする。
定員内不合格は、大人の子どもへの犯罪です。
定員内不合格は、学校の子ども虐待です。
定員内不合格は、子ども差別です。
少し前まで、セクハラやDVも「犯罪」とは認められませんでした。
やられた方が悪い、弱い者が悪い、という社会でした。
定員内不合格も、同じです。
◇
あるイメージ
ウオークマンには中島みゆきの曲だけ400曲余り(ライブ等重なる曲あり)が入っていて、一年中毎日聴いています。
治療の合間にコンサートに行ったとき、来年も生きてこの人の歌を聴きたいと心から思いました。
16歳の時からずっと聴き続けてきて、そして支えられてきましたが、中にはどうしても状況のつかめない歌があります。
去年10月発売の「恩知らず」もそうでした。
私の中でどうしてもイメージが作れないままでした。
《……これきりです
……これで楽になってね
恩知らずに…
…ずっと好きだけどごめん》
サビの部分からすると、男女の話なのかと思いつく限りの状況を想像してみるのですが、どれもしっくりきません。
好きだけど別れる、身を引く?ことが、「恩知らず」になるという思いの状況が、イメージできませんでした。
ところが、先日、病院の待ち時間、2時間くらいその歌ばかりをリピートしていたとき、ふと一つのイメージがこの曲に重なりました。
それは、普通学級をあきらめるときの子どもの気持ちでした。
普通高校をあきらめるときの子どもの気持ちでした。
もちろん、これは私だけのイメージです。
でも、そう思うと、
《たくさんの 親切 心配をありがとう。
たくさんの気づかい 人生をありがとう》と、
口にする人の気持ちが素直に心に降りてきました。
そして、高校の合格発表で、自分の番号がないとき、涙を抑えられない母親の背中に手をまわし、「ごめんなさい」とつぶやく子どもたち一人一人の声が、いくつもいくつも聞こえてきました。
定員が20人空いていようと、30人空いていようと、追加募集の受験生がたった一人でも、その一人を不合格にする掲示板の前で、子どもたちは自分が悪いのだと間違うのです。
そして、母親にごめんなさいと謝るのです。
《心苦しい… 申し訳ない…
…このまま… 無理をさせては いけない》
入試の数か月前に、「やっぱり 受験やめる」と言い出したときのマナちゃんの思いも、同じ思いだったのだろうと思い出されます。
《…だから …これきり
…これで 楽になって
まだずっと(みんなと一緒の学校が)好きだけどごめん》
分けられた子どもが、自分のせいで分けられたのだと間違わないように。
子どもたちが誰もそんなふうに間違わなくてすむように。
わが子を、ただ地域の子どもの一人として守るために、親がボロボロになることのないように。
《恩知らず》 中島みゆき
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