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ワニなつノート

なぜと問わなくてすむように

 先日、ある学習会で次のような発言を聞いた。

「知的障害の子どもがどうして高校なのかわからない。
 何年も浪人したり、何年も留年したりしてまで、なんでそんなに高校にこだわるのか?
 それがぜんぜんわからない。そのメリットはなんなのか?」

私は、その問いを16年前から何度も耳にしてきた。
ただその日、いつもと違ったのは、発言者が何年も前に高校を卒業した人の名前をあげて「意味がわからない」と発言したことだった。

「その子は高校で何を得たのか? 何が成長したのか?『多くの友だちを得た』というが、私の孫は養護学校で友達ができたと言っている。それは高校に行かなければできなかったのか?
何年も浪人して、留年して高校を卒業して、どんな意味があったのか。重い障害の子が何年もかけて、高校に行った意味がぜんぜんわからない。その子は本当に自分の意志で高校に行きたかったのか。」

その問いは、「生きてきたことに何の意味があるのか」と私には聞こえた。
「何がうれしくて、何が楽しくて、何が幸せなのか、何のために生まれ、なんのために生きているのか、さっぱりわからない」
その問いは、やはり私にはそんなふうに聞こえた。

私はその子が、「高校に行きたい」という言葉を自分の耳で何度も聞いた。高校に受かるまでの3年間、学習会で顔を合わせ、都教委に通い、真夜中まで座り込んだり、直接高校まで抗議に行ったりした。高校に行きたいという他の子どもたちとも一緒に、泣いたり笑ったり、怒ったり怒鳴ったりしてきた。その一人一人が高校に受かったときに、どれほどの嬉しそうな笑顔だったか、私は覚えている。
そして高校生になってからの、自信にあふれた「ふつうの高校生」の嬉しそうな顔を、何人も何十人も見てきた。

7月の『障害児を普通学校へ・全国交流集会』(2001年)で、すっかり大人になったその人に久しぶりに会った。彼女は1枚の名刺を私にくれた。
そこには、半年前から一人暮らしを始めたアパートの住所が印刷されていた。24時間介助者にきてもらって生活することからスタートしたようだ。

その夜の交流会で、高校に入れず2浪しているある女の子が壇上に上がった。恥ずかしそうにうつむいていているその子の隣で、「高校生になれるように応援してください」と訴えていたのも、中学卒業から9年間かけて高校を卒業した彼女だった。

自分が楽しんだ高校生活を、十歳年下のその子にも楽しんでほしい、きっとそんな思いで応援する彼女の言葉を聞きながら、私のなかで力が抜けていくのを感じた。


《なぜ、私が見知らぬ人にわかってもらわなければならないのか。わからないのは、その人の経験不足でしかない。
その人のこれまでの人生で積み重ねてきた人と人との関係や、そこで感じたこと、そこから生まれる想像力が、今そこここにある、障害のある子もない子も一緒に学校生活を送るという、ありふれた風景に届かないだけ。障害があっても高校生活を楽しんでいる人はいっぱいいる。それを前向きに受けとめる先生たちもいる。
私は高校を出て、自信と誇りをもっていまを生きている。だから、いまも高校に入れずに悲しい思い、悔しい思いをしている人をわたしは 応援したい‥‥》

・・・・そんな思いが静かに私のなかに広がっていった。
「なんの意味があるのかわからない」と言い放つ人たちに対する、私自身の苛立ちは、彼女のおかげで少しやわらいでいた。彼女も私も、人にわかってもらうために生きているわけじゃない。それより確かな関係を私たちは生きている。

「障害があるのにどうしてそんな生き方をするのか」と問うのではなく、「あなたはそんなふうに生きているのね」と相手の生き方に耳を傾け、支え合う関係を生きている。

昨日、たまたま彼女のお父さんが書いた文章を読んだ。そこには彼女の一人暮らしの様子と、
「ぼくがなによりうれしかったのは、涼に『自立したい』という気持ちが強くあったことです」
という言葉が書かれていた。私たちは、この子たちが高校にいる意味を見つけてほしいのではない。
そのことをわかってほしいのでもない。この子たちの同級生のほとんどが、特にそのことを疑問には思わないように、そんなふうに問わなくてすむような、いろんな人がごちゃごちゃと居合うのがあたりまえの学校を作りたいと、そう願っている。



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