よぉーーやく、やっと、8クールの治療が終わりました(^^)v
◇
最後の点滴の日、主治医は「やっと終わりですねー」と言いながらカルテに目を落とし、「終わり……か・な」と言い直した。
手術時の図を見ながら、「けっこう……だったからねー」と言う。
「けっこう…」が、切除した部分の大きさなのか、進行度なのか、転移の状態だったのか、よく分からないまま、「そうですねー」とうなずく。
「…抗がん剤だけもう少し続けるかな…」とひとり言のようにつぶやき、私が嫌な顔をしたのを見ないまま、すぐに言い直す。
「あ、点滴はないから大丈夫、続けるとしても軽い薬だけだから、…きついのは点滴だよね」
「そうですね…」
主治医の先生は何歳くらいなのか分からないのだが、四十前後だろうか。
おじさんだし、髪の毛もないのだが、けっこう笑顔がかわいい先生だ。
去年、抗がん剤と副作用の説明のあと、「何か聞いておきたいことはありますか?」と問われた時、「髪の毛が抜けるかどうか」を聞きたかったのだが、先生の笑顔と頭をみて聞けなかったのを思い出す。
1クール目の治療の後、あまりに身体がきつかったことを話したら、点滴の量も薬の量も1万円分くらい減った。
そんなに減らしていいのかよと思ったが、そのままの量では飲み込めなかっただろうと思う。
白血球の回復が足りないときや、風邪気味のときも、「今日はやめときましょう」と明るかった。「まぁ予防…みたいなもんですからね~」というセリフが、効くか効かないか分からない予防注射の話みたいでおかしかった。
抗がん剤のはじめは第二次大戦のマスタードガスだったという話を読んで、心からうなずけたことがあった。
いつも最初の一週間は、飲めば飲むほど身体が動かなくなり、手足がしびれていく。
冷蔵庫のものには触れないし、水も飲めない。
これさえ口にしなければ健康なのだと、身体はよく分かっていた。
何度も捨てたいと思ったが、娘のことを思うと、結果はどうであれ最後まで続けようと思いなおした。思い直しはしたが、それでも一人の夜に薬を飲みこんだ後、訳もなく涙がこみあげることがあった。自分が石を飲み込んでいるような感覚というか、自分が何をしているんだろうと訳が分からなくなる思いがした。
一人暮らしだったら、この治療はできなかったと思う。
◇
娘といえば、ホームの「次女」が、入院の前に泣いてくれたことがある。
手術と入院のことは、ふつうにみんなに話していた。
一週間くらい入院してくるから、留守中よろしくと。
数日後、ホームに帰ってきた次女は、私がすでに入院したと勘違いしていたのか、「なんでいるの?」と驚いていた。
「なんでって、ベッドが空いてないから入院は来週かな」
普通に話しているのに、彼女は突然小さな子どものように泣き出した。
「死なないでー」
「何言ってんの、大丈夫だって、手術もまだなんだから」と笑いながら答えた。
それでも彼女は人の話など聞かず(それはいつものことだが…)、みんながいるのも気にせず大声で泣き続ける。
「口答えしてごめんなさい~…だから死なないで~~~」
「口答えしてごめんなさい」という言葉が彼女の辞書にあるのがおかしくて、笑いながら大丈夫というのだが、彼女は泣き続けた。
「いい子になるから…」とも言った。
いや、それは話が違うだろと突っ込みたかったが、冗談で言ってるのでもないようだった。
本当に3、4歳の子どものようにまっすぐに泣いてくれた。
ホームに来てからの一年、何十回と私とケンカした子だった。
その彼女もいまはホームにいない。
先日、彼女がホームを出るにあたって、彼女の両親と話す機会があった。
実父と養母とうまくいかずに、ホームにきた彼女も両親と会うのは2年ぶりだった。
私はあの時彼女が泣いてくれたことが、治療をしているあいだ、ずっとありがたかったと話した。そしてそれは彼女が大切に育てられたからだと思うし、彼女はホームにきてからもずっとお父さんのこともお母さんのことも大好きだったと感じてきたと話した。
すると、それまで黙っていたお母さんが、「私はずっと恨まれていると思っていた」と言って涙をこぼした。その後、彼女とお母さんはメールと携帯番号を交換して、いまもお母さんとのメールのやりとりは続いている。
私たちがホームで彼女にしてあげられたことはほとんどない。
貯金もないままホームを出て行って、いまも彼女の苦労は続いている。
それでも、彼女にとって、ただ安心して羽を休める場所であれたのだとしたらうれしいし、なによりも私たちは彼女に出会えてよかったと心から思っている。
◇
…という訳で、とりあえず当初予定の治療は終わりです。
来週、CTとかレントゲン撮って、しばらくは普通の生活に戻れる感じです。
この間、途切れ途切れに書いてきたブログも、ちゃんと書きたいと思います。
まだ時間があるなら、私にはもっと「知りたい」ことがあります。
そして、私が「知っていること」も、確かにあると思うようになりました。
原発を巡る今の状況を見ていて、この国の政治家や大人の多くは、子どもたちの未来を真面目に考えられない人なのだと改めて確信します。
たった2年で、福島の原発事故をなかったことのようにしたい大人が、力が、こんなにもたくさんいて、強い、のです。
同じこの社会の大人が、福祉の分野だけは、教育の分野だけ、医療の分野だけは、子どもの立場に立って、子どもの未来を考えることができているとは思えません。
いまの福祉のありよう、教育のありようが、おかしいことは、原発と同じくらいあります。
私は私の人生で見てきたこと、感じてきたこと、出会ってきた人や子どもたちのことを通して、「子どもたちが、誰も分けられず、故郷を追われず、安心して生きられる未来のために」、自分の信じることを、自分で知りたい、言葉にしたいと思います。
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