ワニなつノート

ゆきみちゃんのこと(その2)



ゆきみちゃんのこと(その2)

《でも、母さん、しかたないんだ》




入学前、ゆきみちゃんの両親は、何度も学校と話し合いました。

ゆきみちゃんは、いつもその場にいて、大人たちの言葉を聞いていました。

就学通知を受け取り、入学が決まってもなお、「何かあったら命にかかわる」と、いろんなことを制限する言葉が繰り返されました。


「何かあったら警察が介入してくるかもしれない。そうなると、自分たちが起訴されるかもしれない」

「クラスにゆきみさんがいたら、うちの子があんまり見てもらえないと保護者からクレームがくるかもしれない」

……


あまりに非情な言葉の数々に、ゆきみちゃんは、「がっこう きたら いけん いうて いいよる」と泣き出しました。


それでも、ゆきみちゃんは、いつも話し合いの場に居続けました。

そこから外されることを承知しませんでした。


ゆきみちゃんは本当に勇敢な、そして、やさしい女の子でした。




    ☆   ☆   ☆   ☆



かいとくんも、7月の要望書提出の時、そして8月の回答の時、その場で大人たちの言葉を聞いていました。


子どもたちはいつも大人たちの言葉に耳をかたむけています。

そして、障害のあるふつうの子どもたちは、いつもこうした話を聞いてきました。

子どもたちは、いつも、この国の「学校と教育」の水準を見つめています。

「人権」とか「子どものため」という大人の本当の姿を見つめています。


「ここにいるわたし」

「いきてここにいるわたし」

「ただの6さいの子どもであるこのわたし」



そこにいる6歳のこどもを、ふつうの子どもとして、受けとめることのできない、大人たちの悲しい姿を、いつも子どもたちはただ黙って受けとめてきました。


子どもが見つめているのは、この社会、大人の姿そのものです。


「がっこう きたら いけん いうて いいよる」
そう言って泣き出してしまう子どもの不幸と、そして幸せを、わたしはずっと見てきました。


不幸は、子どもを分ける大人に出会ったこと。

そして幸せは、世界を敵に回しても、自分のために身体を張って守ってくれる親の姿を全身で感じることでした。


「わたしには、こんなにも、力強いお母さんとお父さんと、仲間がいる。

意地悪な大人もいるけれど、わたしの味方はそれよりもずっといっぱいいる。

だから、わたしは、どうどうと、ここにいていいんだ。

わたしは、ひとりぼっちじゃない。」


そう思える子どもは、どんなに苦しい状況に置かれても、幸せを失くさないでいることができます。



    ☆   ☆   ☆   ☆


ゆきみちゃんは、入学してからも、親の付き添いを条件にされ、プールにも入れてもらえませんでした。

2階への移動も、なぜか禁止されました。


だから、ゆきみちゃんは、週一回の図書の時間を、一年間ひとりで過ごさなければなりませんでした。


1年生も終わるころ。

2月のある日、ゆきみちゃんは、一度だけ、2階にあがることができました。

その日、ゆきみちゃんは日記に書きました。


「2かいにいったら、ともだちがいませんでした。
2かいでまたひとりで本をよむのかとおもいました。
そしたら、ともだちがあがってきたから よかったとおもいました」


でも、次の週にはまた禁止。

ゆきみちゃんには、なんの説明もありません。

ゆきみちゃんはまた、1階の教室でひとりで本を読みながら、みんなが降りてくるのを待ちました。


その日、家に帰ったゆきみちゃんは、お母さんに言いました。

「わたしも、みんなとあがりたかった」

「ああ、あがりたかったんじゃね」

お母さんは、そう答えるのがせいいっぱいでした。


すると、ゆきみちゃんは言いました。

「でも、母さん、しかたないんだ」





  ☆   ☆   ☆   ☆



ゆきみちゃんは本当に勇敢な、そして、やさしい女の子でした。

コメント一覧

yo
コメントありがとうございます。
ゆきみちゃんのことは、まだ続くよ~。

明日は、やっと講演会の実行委員会と
会報の印刷に定例会で忙しいけど、
よろしく~(・。・)








mayumi
いつだって、子どもは親のことを思ってくれているよね。親は、世間を見て、遠慮してしまうけど、そのことで、我慢をして、そこにいるのは、子どもだったりして・・・。
 がんばっている両親をみて、どんなにか愛されていることをゆきみちゃんが思えてくれたら、それは、幸せなことですよね。支えてくれる仲間や、頑張ってくれてる両親をみて、勇敢でいられたのかもしれない。
 頑張らないと、みんなの所にいられない子どもたちが、勇敢でいられるように、支える側でいたいと思いました。ゆきみちゃん、ありがとう。
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