障害があっても自由に生きる 重度訪問介護の浸透を徳島から目指す
湯川うらら2022年2月9日 朝日新聞
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「この写真は、車いす用のレインコートを着ているところ。車いすで人工呼吸器を付けていても、すぐ出かけることができます」
昨年9月、筋力が徐々に低下する難病「筋ジストロフィー(筋ジス)」患者に向けて開かれたオンラインセミナー。「自立生活センターとくしま」代表の内田由佳さん(39)は徳島市内のアパートの自室から参加した。
ベッドに仰向けに寝ころび、専用器具でノートパソコンを顔の上に設置し、自身の生活ぶりを紹介した。自身も筋ジス患者で全身がほとんど動かず、呼吸器が欠かせない。だが、一人暮らしをしている。
障害福祉サービス「重度訪問介護」(重訪)を利用し、1日最大24時間の介助を受ける。5人のヘルパーが交代で付き添い、たん吸引、呼吸器マスクの位置の調整、体位変換などを担う。
主な食事は胃ろうで取るが、スイーツを食べたり、大好きなお酒を飲んだりもする。入浴は介護浴槽を使って好きな時にできる。買い物や外食は、車いすのまま乗れるスロープ付きの車で。「ヘルパーさんのおかげで色々なことができるし、安心するし、色々な考え方を知れる。自分の分身であり、支えです」
徳島県美馬市出身。生まれてすぐに筋ジスと診断され、小学校から高校までの12年間、障害者支援施設で暮らした。他の入所者との大部屋で、食事や風呂など決められたスケジュールの生活。外出は、月1~2回。「がまんは仕方ない」と気持ちを抑えてきたが、成長するにつれ、「自分にうそをつかずに生きたい」という思いが強くなった。
◇
高校卒業と同時に施設を出て、障害者支援が充実する四国学院大学(香川県善通寺市)に進学。大学近くにアパートを借り、家族が交代で付き添った。学内での移動や食事、トイレなどは学生有志の介助を受けながら、社会福祉士と教員の資格を目指した。
だが、3年次から病状が悪化。夜間は呼吸器を使うようになり、体力も落ちていった。実習に思うように出席できなくなり単位が足りず、資格取得を断念。精神的にも落ち込み、卒業後は就職や大学院進学はせずに、実家に戻った。
ほとんどの介助は家族が担った。病状はさらに悪くなり、体位変換やたん吸引の回数が増え、一日中呼吸器をつけるようになり、家族の負担も増すばかり。いつかまた、施設に戻ることになるのかもしれない。でも、もう自分にうそをつきたくなかった。
そんな時、大学時代に知った、重訪を使って自立生活を実現させている障害者の存在を思い出した。だが当時、徳島県内で24時間の重訪の例はなく、相談支援員からも「前例がない」と難色を示された。それでも、全国からの支援もあって利用が認められ、2016年3月から徳島市での一人暮らし生活が始まった。
今日どう過ごすかを自分で考えること、雨の中で外に出かけること――。初めての経験をするたび、目の前の世界が広がっていくのを感じた。
◇
「どんな障害があっても自由に生きることを、あきらめなくてもいい社会にしたい」と、17年に自立を目指す障害者を支援する「自立生活センターとくしま」を設立。障害者が地域で生活するための情報提供や相談業務、イベントでの講演を行う。
内田さんは今も、「障害者の自立」が、世間に浸透していないと感じている。「制度があるのに周囲から『できない』と言われ、障害者の希望がそがれてしまっている。制度はみんなと同じスタートラインに立つためのもの。電気や水道と同じインフラとして認識される社会を目指したい」
同時に、障害者自身も声をあげてほしいと願う。「勇気がいることだけど、訴えることをしなければ、社会は耳を傾けてくれない。身の回りの状況も変わらない」(湯川うらら)
重度訪問介護に詳しい立命館大の立岩真也教授(社会学)の話
食事や移動、仕事などの生活における「手間」は、様々な理由で人によって違う。介護などの社会福祉サービスは、その差を社会全体で埋めるために存在している。サービスを受けることで、健常者より得をしていることは、少しもない。
重訪では、重度障害者1人に何人ものヘルパーが携わり、その費用は税金でまかなう。だが国の予算に占める障害福祉サービス関係費は約1%で、重訪はその中のほんの一部。利用者の増加が、国の財政に直ちに影響を与えることはないと言える。さらに、ほとんどの市町村の負担は4分の1で、残りは国などからもらう。
町のヘルパーが町の障害者を手助けし、その賃金を町で消費し還元する。働く場が少ない地方に産業を興すことにもつながる。現に、離島や過疎地でも制度は使われている。
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