ワニなつノート

HalとNaoちゃんの待ち時間(10)

HalとNaoちゃんの待ち時間(10)


(8)で、私は次のように書きました。

≪HalとNaoちゃんの「日常」のカタチの違いは、
すべての子どもを受けとめる場所としての学校の貧困が原因であり、
それを防ぐ手段の一つは、今の学校のあり方に、
入学前から異議申し立てをすることです。≫

割とあっさりと書きましたが、
これがそう簡単でないことは分かっています。

まず、「異議申し立て」をするには、
それなりの「動機」と「決意」が必要です。

特に問題がなければ、入学前から学校に
「異議申し立て」をしようなどと考える親はいません。

まして、ほぼ100%の子どもが受ける就学時健康診断を
受けないことなど、夢にも思わないでしょう。

では、Naoちゃんとやっちゃんのお母さんが、
就学時健診を拒否しようと思ったのはどうしてだったでしょう。


≪一回目の就学相談で、相談員から
「特殊学級もしくは養護学校」という話が出て、
「普通学級に行けるかもしれない」という
私のかすかな期待は大きく崩れ去ってしまいました。≫(Naoちゃん)

≪自閉症といわれる我が子の就学は、
いつからか頭が痛い問題でした。
ふつう学級の中に、じっとしていられない我が子を入れて、
授業が成立するのは困難だと思ったからです。≫(やっちゃん)

それぞれに、子どもとの日々の中で、
「考え続けた」長い長い時間があります。
その子と初めて会う相談員の何百倍、何千倍の時間を、
子どものことを思いながら費やしてきたのです。
その上で、ちょっと子どもを見ただけで「養護学校です」
という専門家を、信じられるものではありません。

また、特殊学級に行くしかないのだと思いながらも、
次のような現実を前に、気持ちは揺れます。

≪前から知っていた子に、
「うちの子、なかよし学級に行くことになるから、よろしく」
と言うと、「えー、なかよし。やばいよ…。みんなキョーボーだし」、
…なかよし学級の子どもたちの人格を否定する言葉が
次々出てきました。まわりの大人たちが、
ちゃんと子どもたちに説明していないなんて…。

子どもたちに自然と差別させてしまう分離教育は恐ろしいと思い、
すぐに校長に電話しましたが、納得いく回答は得られませんでした。


Naoちゃんもやっちゃんも、たった6才で
こんなにも「差別」される存在として、そこにいるのです。

うまくしゃべれないことや、字が書けないことは、
この子の「障害」のせいかもしれない。

だけど、「差別」されるのは、この子のせいじゃない。

この子から、子どもの当たり前の居場所を奪おうとするのは、
この子の「障害」ではない。

この子を「差別」しているのは、「学校」なのだ。

そうしたことを、知識や言葉としてでなく、
子どもの日常を通して感じ続けたはずです。

だからこそ、「一緒がいいよね」
「お母さんの願いは、ごく当たり前の願いだよね」
「みんな、いっしょに地域の学校に行こうよ」という言葉は、
砂漠で倒れそうなときの、一口の水のように感じられるのでしょう。

そうした契機がなければ、就学時健診を拒否することや、
入学前に「当たり前のことをわざわざ」言いに行くことはできません。

でも、その「当たり前のことを、わざわざ言いに行く」ことでしか、
子どもを守れない現実が、今の学校の現実なのです。
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